第11話 どんな感じに配信すれば良いのかな?
千世は家に帰るとリビングのソファーに倒れ込む。
どっと疲れたとか、そんな感じではない。
むしろ元気は有り余っていて、足りないのは脳に供給する糖分と精神バランスだった。
「はぁー」
大きな溜息。もちろん原因は約束だ。
まさかダンジョンにまた行くことになるとは思わなかった。
「でも約束しちゃったし。破る程の約束でもないし、如何しよう」
千世は困ってしまった。
ソファーの上でぐったりなっていると、千世のスマホがブレザーのポケットの中でプルプル震える。
「あれ?」
取り出してディスプレイを見る。そこには師走の名前がある。
ROADのメッセージ機能を使わずに、普通に電話が掛かってきていた。
千世は「何か急用かな?」と思い電話に出る。
「もしもし?」
『あっ、千世! やっぱり元気ないじゃんかー』
師走は予想していたみたいだ。流石は幼馴染で親友だ。
千世はムッとする訳でもツンになる訳でもなく、「そうかな?」とナヨナヨした声を上げた。
『ちょっとだけ疲れてるよね。もしかして気が付いてない?』
「うーん、疲れてはないけど……」
『後ろ向きなのに、自分のそういう所は気付けないんだね』
流石に煽れれていると理解する。
千世はソファーから起き上がり、普通に座る。ちょっとだけ声を張り、「要件はそれだけ?」と強張る。
『ううん。要件はそれだけじゃないよー』
師走の返答は軽やかだった。
千世は(何だろ?)と心の中で疑問を浮かべる。もしかしたら気が変わった……とかではなく、普通に宿題を写させてとか、前もって言ってきてるのかな? 下手な推測を立ててみた。
「宿題はまだやってないし、自分でやらないと……」
『そうじゃなくてさー、ダンジョンのこと』
「えっ?」
突然のことで千世は驚く。
急に自分の想像の外側から出てきた質問に、首を捻ってしまう。目を丸くして、「えっ?」の何度も繰り返す。
『千世は余計なことを考えると進めなくなるから、何にも考えなくて良いんだよ』
「い、いきなりディスられた」
グサリと心に楔が刺さる。
しかし師走は気にせずに会話を進めた。
『千世って考えれる人でしょ?』
「う、うん?」
『でも考え過ぎて止まっちゃう人でしょ?』
「あ、うん」
もの凄く貶されている気がした。
ズバズバと浴びせられる罵倒に、千世はちょっとだけ傷付く。しかし師走は話を一変させた。
『だから考えた末に自分の思う最善を取れば良いんだよ。千世はそれができるでしょ?』
「そ、そうかな?」
『いつだってそうでしょ? スルスル躱して受け流して、欲しいものに最短距離で到達する。私の最短距離とは違うもんねー』
それは褒められているのか褒められていないのか、千世には判断が難しい話だった。
だけど師走の話し方はマイルドでフラット。とにかくペチャクチャ話してくれた。
『だから余計なことは考えない方がいいよ。私みたいに前だけしか見てないタイプじゃないのは分かっているけどさー、千世は迷っちゃうから止まっちゃうんだよ』
「ま、迷っちゃ駄目なのかな?」
『そんなことはないけど、迷ってたって始まらないでしょ? とにかくやりたいことのために最善を選んで突っ走る。それが私で、千世にも真似できることだと思うよ』
やっぱり難しかった。
師走みたいな直感的な性格にはなれない繊細な千世にとって、とっても歯茎が歯痒い思いを強いられる。
だけど師走のおかげで少しだけ心が軽くなる。
「ありがとう」と言った方が良い気がするが、師走は更に続けるので少し待つ。
『だから企画なんて考えなくてもいいよー』
「あっ、そこに辿り着くんだ」
急にダンジョンの話に戻った。
如何やら全てお見通しのようで、先手を打たれたのは言うまでもない。
さっきまでのは盛大な前振りと見せかけた、千世の心をほぐすための言葉だった。
スッと軽くなった胸を摩り、師走の声に耳を傾ける。
『ダンジョン配信なんて上手くいかないのが普通なんだからさ、余計なこと考える方が馬鹿だよ』
「馬鹿は酷くないかな?」
『いいや馬鹿だね。サバイバル環境で狙ったことをしようとするなんてマヌケだよ。極限状態を謳歌するにしても、舐めた態度は駄目って、千世が言ってたじゃんかー!』
自分で掘った穴を更に深く掘られる。
逃げ道が天高く遠のいて行き、完全にポツンとさせられた。
『と言う訳で次の休日行くダンジョンなんだけど、私の方でも考えておくよ。それなりに面白そうな所が良いでしょー?』
「面白いはともかく、危険が少ない所がいいな」
『危険が少ないは無い無い。ってことで、話はこれだけなんだけど、千世大丈夫そう?』
師走は心配してくれる。
何やかんやとっても優しい親友で、千世はスッと目を閉じる。
「うん。ありがとう師走」
『全然。ってことで、先輩としてよろしくねー。私もどんな能力が手に入るか楽しみだよー。んじゃね』
プツンと通話を切られた。
ザーザーと音が耳の奥を通過すると、スッとソファーの背もたれに腰を預ける。
「考えちゃ駄目かー。うん、そうかも」
千世も自分に納得する。
師走の言葉を受けて心が軽くなってスッキリした千世は、そのままソファーの上に横になり目を閉じるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます