第10話 親友がダンジョン配信者になりたいそうです
その日の学校は憂鬱で仕方なかった。
それもそのはず朝っぱらから親友の師走に茶化されて気が滅入ってしまった。
しかし学校についても千世の話題は全く上がらなかった。
如何やらこの街で千世の配信を観ていた気まぐれさんはいないようで、その点だけはホッと一安心する。
師走も師走で自分の中で茶化すのは留めてくれていた。
だから誰かにひけらかすわけでもなく、千世の話題を上げようとはしない。
とは言えお昼頃になると、千世はいつも通りお昼ご飯を食べることになったので、一旦教室を出ることにした。
「千世、何処で食べる?」
「何処でもいいよ」
「何処でもいいかー。それじゃあ屋上行こう、屋上!」
普通の学校は屋上は開放されていない。
だけど千世達の通う
だから普通に屋上には行けるけど、風が強いから人は少なかった。
「うわぁ、風が!」
「ううっ、目が痛い」
今日も案の定風が強い。
この風見原では日常茶飯事なことだけど、高い所だと尚更。そのせいもあり、案の定なの様子だ。
「そう何だよね。この風の影響でエネルギー資源には困らないのに、屋上みたいな所に人は行きたがならないんだよね」
「そんな所にわざわざ足を運ぶ私達って……」
「あはは、変わり者ってことじゃない?」
師走は笑っていた。
あんまり嬉しくないなと思いつつも、空いていた青いベンチに座ると、早速お弁当を広げる。
千世は自分で作って来たお弁当を、師走は朝コンビニで買って来た菓子パンだ。
お互いに手を合わせてから食べ始めるも、師走は早速話題を投げる。
「そうだ千世。私もダンジョン配信者になりたたんだけど」
「えっ?」
千世は指の感覚が抜けた。
持っていた箸から卵焼きが落っこちそうになるも、師走が首を伸ばしてパクリと食べる。
「危ない危ない。もう千世、この街は風が強いんだから落とさないでね。すぐ転がっちゃうから」
「そ、そうじゃなくて、今何って言ったの?」
「ん?」
千世と師走は話が噛み合わない。
お互いに目を見合うと、師走は決め台詞みたいに答える。
「だ・か・ら、ダンジョン配信やってみたいんだよ!」
千世は頭がフリーズし、一瞬言葉が飲み込めない。
無理やり咀嚼して噛み砕くと、「えっ?」と首を捻る。
「あれー、聞いてないのかな?」
「聞いてるよ。でも、ダンジョン配信者をやりたいの?」
「うん! 私はダンジャン配信を結構観るんだけど、イマイチその瞬間、瞬間しか頭に入らなくて、実際どんな所なのか見てみたいんだ!」
完全に観光気分だった。
市役所で説明を聞いている千世はその甘い考えを否定する。
「駄目だよ師走! そんなことじゃダンジョンに飲まれちゃうよ!」
「ほえっ? ダンジョンに飲まれるとは?」
師走は完全に初見の反応だ。
何にも分かっていない様子で、目を丸くしている。千世はそんな師走に注意する。
「わ、私もよく分かってないけど、ダンジョンは危険な所で、舐めた考えで入るとダンジョンに飲まれるって聞いたよ」
「はて? 確かダンジョンの中でいくら死んでも死なないんじゃなかったっけ? ゲームみたいなアバターでダンジョン内は行動するから」
「そ、そうなの? で、でも、ダンジョンは危険な所なんだよ! そんな師走みたいな……」
「あー、私のこと舐めてるでしょ? ふーんだ、私は面白半分でダンジョンに行く気はないよ。ちゃんと意味があるんだからねー!」
師走はニヤニヤした笑みを浮かべる。
とっても嫌な予感がプンプンした。
「そ、その理由は?」
「とっても面白そうだからだよ!」
分かってました。期待した私が馬鹿でした。千世は額を抑えると、師走は両手を広げる。
「それに千世も一緒に来てくれるでしょ?」
「な、何で私も行く流れになってるの!」
千世は猛抗議。しかし師走には届かない。
「嫌だよ。あんな危険な所、私は行きたくないよ!」
「えー、でも千世はダンジョン大丈夫そうだんだよね?」
「勝手なこと言わないでよ!」
師走の意味分からない一言に怒鳴り声を上げる。
師走も流石に懲りたのか、「ごめん……」とか細く謝る。如何やら気持ちが伝わったようで、「ただ……」と追加の一言が出るまでは千世も安心し切っていた。
「私は千世と一緒に行きたいな」
「えっ?」
突然素に戻った。
師走の瞳が一点を見つめている。もう止まる気はない。
「私が誘ったのは千世と行きたいからだよ。駄目かな?」
「うーんと……駄目、だけど……うーん、はぁー」
千世は溜息をつく。もう言っても聞こえない。師走はそういう人間で、結構分かりやすいくらい自分を通す人だった。
「いいよ。私も行く」
「本当!」
「だけだあんまり危険なことはしないようにしようね。藪蛇なんて出したくないもん!」
「分かってるよ! それじゃあ今度の休日何だけど……」
「か、勝手に話が進んでる」
千世はもう諦めることにした。
師走は人柄が良いけれど、時々暴走する。その暴走は周りを巻き込んで引き摺り回して絶対に離してくれない。自分が離すまで、永遠に引っ張られ続けるのだと、改めて再認識した。
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