第3話 謎のクリスタルが吊るされた部屋
千世はダンジョンの中を進む。
道中でスライム以外にモンスターを見かけることはなかった。つまり平和なダンジョンなのだが、こんな撮影で良いのかなと、千世はちょっぴり考えていた。
「でも、私は配信者じゃないもんね。撮れ高なんて考えなくてもいいんだよね?」
もちろん仮に配信者だったとしても、撮れ高を気にする気はなかった。だってそんな余裕ないから。だけど自分の性格的に、何か企画を考えようとして頭を抱えちゃうんだろうなと、首をブンブン振って考えないようにする。
だけどカメラドローンが回っている手前だ。ちょっぴり緊張感が出る。
千世は気分だけでも撮影している風で、少しでもテンションを高めようとする。もちろん自分の姿はカメラの画角には入り込んでいないので、何にも意味はないんだけどね。
「えーっと、何って言えばいいんだろ? うーん、話すのはあんまり得意じゃないから……難しい」
千世は唸ってしまう。腕組みをしたまま考え事をしていると、ふと目の前が明るいことに気がついた。
「あれ? もしかして一番奥まで来たのかな?」
そんなに長いダンジョンじゃなかった。
大体十分くらい歩いてみると、一番奥に辿り着けるので、これでお小遣いがアップして貰えたら安いよ。千世は安堵してドローンカメラを回していると、一番奥の部屋に辿り着く。
「よいしょっと。うわぁ!」
千世は一番奥の部屋に辿り着いた。
そこは大体八畳程のスペースが広がっていて、中央には台座が置かれている。
超古代文明の遺産のようだった。
もちろんダンジョンにはまだまだ謎なことが多くて、異世界とこの世界が繋がってできたとしか知られていない。だから千世みたいなダンジョン初心者さんには難しい話になる。
「うーん。何をしたらいいのか分からないよ」
千世は困ってしまう。
首を左右に傾けながら、とりあえず台座に近づいてみた。
「平らだ。長方形の台座が置いてあるだけだよ」
触ってみると信じられないくらいツルツル。
おまけに傷の一つも付いていなくて、千世は「本当に意味あるのかな?」と怪しむ。
もちろん誰だって思うことだけど、流石に意味がないと怖い。可能性としては、例えばブラフ的な意味があるのではと、千世は足りない頭を使い回った。
「それともう一つ。コレは何?」
千世は台座の真上を見た。
するとそこには一際大きなクリスタルが吊るされていた。
「如何してクリスタルが? しかもこんなに大きいクリスタル、私見たことないよ」
千世は台座もそうだが、その真上に吊るされている青白いクリスタルに視線が行く。
誰かが意図的に設置したとしか思えない生え方をしていて、天井から吊るされているのは明白だった。
「えーっと、これ以上何したらいいんだろ?」
千世は困ってしまう。
一応撮影はしているけれど、これ以上調べることはなかった。
もう帰るだけかなと思い、千世はカメラドローンの電源を切ろうとする。
やることがなくなったので、後退りをしようとするも、何故かクリスタルがピカッ! と光った。
「えっ? 今光った?」
千世はカメラドローンを点け直した。
何故かクリスタルが光ったのは明白で、千世は瞬きを繰り返す。
「絶対光った! な、何で? 何で何で!?」
千世はおかしいと思って動揺する。
クリスタルには手が届かないので、台座をペタペタ触ってみる。
だけどボタンのようなものは何も無くて、千世は首を傾げた。
「分かんない。分かんないよ!」
千世はゴン! と台座を叩いた。
すると手の方が痛くなっちゃったけど、突然クリスタルが発光し始める。昔のテレビみたいだなーと、知ったかの知識をひけらかした。
ブォォォォォォォォォォォォォォォン!
クリスタルがより一層青白く輝く。
むしろ光すぎて真っ白になり始め、千世は「もしかしてやっちゃった?」と不安になる。
だけど止まってくれるわけもなく、むしろ部屋自体がヘンテコになった。
ガタガタガタガタ!
「う、動いてるの?」
部屋の中が軋み始めた。
四方に溜まっていた埃がポコポコ浮き上がり、徐々に振動が強くなって、部屋の奥行きが広がる。一言で言えば、部屋が広くなった。
「な、何で部屋が広くなるの! コレって絶対ヤバいよ!」
千世はパニクっていた。
だけど振り返ってみると唯一の出入り口が遠のいていき、千世は目を回す。絶対に何か起こる。そうに決まっている。
お約束展開を頭の中で並べつつも、固まってしまった足を奮い立たせようとした。
しかし一歩遅かったのは、誰が見ても明らかでありがちな展開だった。
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