第2話 早速スライムに出会ったぞ!
ダンジョンの中に一歩踏み入れた千世。
すると突然全身に悪寒を感じた。
「ううっ、何だか寒気したような?」
体が硬直した。
だけど痛いところとか痒いところはなく、例えるなら飛行機の搭乗ゲート前で貴金属チェックを受けたような、そんな感覚。
要は、何も起きなかったわけで千世は安心する。
「もしかしてこれがダンジョンなのかな?」
ダンジョンで人が死ぬことはない。
だけど常に何が起こるか分からないのが未知と言うもので、十分用心する必要があった。
とにかく慎重に行動すること。
それが初心者が下手に精神疾患を患わないための方法なのだ。
「すぅーはぁー。よしっ!」
時々立ち止まって深呼吸。
意外なことにダンジョンの中は息苦しいのかと思いきや、何処から外の空気を取り込んでいるのか、めちゃくちゃ居心地が良かった。
これもそれも薬の効能なのかと、千世は考えていた。よく分からないけど、凄いんだと思うことにする。
「でも逆な考えたらそうだよね。普通の人は飲んですぐに倒れないもんね」
完全に毒薬を飲んだドラマの被害者のようだった。
考えると無性に恥ずかしくなるので、これ以上は思い出さないようにする。
それにしてもと、もう一度千世は考えた。
ダンジョンの中は外から見た時は岩肌に面しているので、ゴツゴツと岩の表面が張り出しているものとばかり想像していたのだ。
だけど実際中に入ると全く違った。
明らかに人為的な舗装の跡があり、石煉瓦を敷き詰めているのか、それともそれっぽいタイルをセメントで固めたのか、theダンジョンって感じが広がる。
「ううっ、不気味。RPGは好きだけど、自分で体験するのは違うよ」
体感型のアトラクションも今の時代たくさんあった。
だけどテレビに繋いで遊ぶゲームと実際に体験するのでは、大きく異なっていた。
千世は後ろ向きなので、そう言ったことに自分から首を突っ込もうとは思わないのだ。
とは言え凄くネガティブな性格ではないので、何とも言えない。
「お願いします。何にも出ませんように!」
ダンジョンに来た人が絶対に言わないことを言ってしまった。
するとそれがフラグになったのか、何か現れた。青いプルプルしたゼリーに違和感を覚える。
「す、スライム?」
流石に千世でも知っていた。
青いプルプルした謎でも何でもないモンスター、スライムが現れたのだ。
「な、何にもしてこないよね?」
スライムはちょこんとしていた。
如何やら千世に気がついていないようで、こっそり壁側を歩いて避けようとする。
だけどスライムはポロッ! と壁の一部に溜まった埃が落ちる音を耳にして、千世の存在に気がついた。
それから千世には全く敵意はないのに、急に飛びかかろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ! 私何もしないからぁ!」
千世は叫んでいた。スライムが飛び掛かる寸前に、頭の中に[真っ直ぐ来る]と文字が見え、その五秒後に本当に飛んできた。
もちろん十分時間があったから、千世は右に避けた。
「あ、危なかった……大丈夫?」
スライムは壁に激突し、ペチャーとなって床に落っこちた。
怪我とかしてないか心配した千世だったけど、スライムは気を取り直して再び飛び掛かる。
「ま、またっ!?」
[また真っ直ぐ!]と頭の中に文字が見えた。
不思議に思いつつも、千世は今度は左に避けてみると、スライムが千世のいた場所を通り過ぎる。
「さ、流石にもう攻撃しないでね。私は戦う気がないからね」
千世はスライムにしっかり伝えるが、ちゃんと聞いてくれない。
モンスターだから仕方ないのかと思うも、スライムはしつこく飛び掛かる。
本気で千世を倒そうとしているようで、流石に避けてばっかりじゃ駄目になった。
「は、走ろ!」
千世は走って逃げる。
とにかくスライムから離れれば、流石に来ないよね。そう思いとにかくダンジョンの奥へ全力疾走の予定だったけど、スライムは懲りずに襲い掛かった。
「も、もうしつこいよ!」
千世はスライムが向かっていたので、ペインと叩いた。
軽く撫でるように右手を左方向に薙ぐと、スライムの柔らかいボディが指先に食いつく。だけど次の瞬間には指先から完全に離れていて、ベチャ! と思いっきり壁に叩きつけてしまった。
「あ、あれ?」
千世は困惑する。
スライムが壁に思いっきり叩きつけられて動かない。
これはもしかしてと青ざめるも、スライムはズルゥーと壁から剥がれ落ち、床にネトッと落ちた。
とっても元気がなかった。
全く動く様子がなく、近づいてみた千世はスライムに手を伸ばすも、光の粒子になって消えてしまう。
「も、もしかしてだけど、倒しちゃった?」
コロンと音を立てて小さな紫色の石ころが落ちていた。
拾い上げてみると中に粒々が入っていて綺麗だった。市役所で聞いていた魔石と呼ばれる魔力をたくさん保有したモンスターの生命機関に当たる部分で、人間で言うところの心臓だった。
つまるところこれが落ちていると言うことは、もうお分かりだろう。
千世は青ざめた表情のまま自分がスライムを倒したことに驚いている。
倒した実感が全くなかった。
ダンジョンに行くならそう言うこともつきものだと思っていたけれど、まさかこんな簡単に倒せてしまうのは聞いていなかった。覚悟が決まる以前の問題で、スライムの弱さにドン引きした。
「う、嘘だよね?」
嘘じゃなかった。スライムは確かに倒されている。
千世はしばらくの間ジッとしていたけれど、これ以上いても仕方ないと思い先を目指した。
ちなみにスライムもやわじゃなかった。
なのにたった一撃で、しかも壁に叩きつけて倒せたのは、千世がそれだけ強くダンジョンの力を吸収している証拠だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます