【悲報】ダンジョンで撮影したら、間違って誤配信してました〜回避特化な私が、何故かバズってしまった件

水定ゆう

第1話 私がダンジョンにやって来たわけ

 少女が一人立ち尽くしていた。

 目の前にはちょっとした山があって、木々の生い茂る道を掻き分けると、岩肌に大きな穴が開いていた。

 穴の中は周りは木を格子状に組んで崩れないように施されていた。


「何でこんなことになったのかな?」


 少女は困惑していた。

 ここまで来ては何だが、流石に入る勇気がなかったのだ。


 蜘蛛の巣が入り口に張られていて、かなりの間人の出入りがされていないことがすぐに分かった。

 それもそのはず、人が入った話を聞いたことがなく、入り口の部分だけ入れるように補強されているだけだった。


「か、帰ろうかな」


 少女はビクビクしていた。とっても不安で、履いているパンツをギュッと握った。

 とは言え腰には革製のベルトを巻いていた。

 足元は滑らないようにグリップの強いスニーカーを履いて来た。完全に入る格好をしていた。


「うーん。やっぱり入りたくないよ」


 少女は本気で帰ろうかなと思った。

 だけどせっかくスマホと専用のAIドローンを用意してしまったので、もう後に引けなかった。

 いいや、まだクーリングオフは間に合うから、レシートを持っていけばきっと返金はしてくれるはずだ。

 だけどその勇気がなかった。


「ううっ、何で一人で来なくちゃいけなかったの?」


 こうなった原因は少女の母親にあった。

 当然電話がかかって来て、何かと思ったら所有している私有地の山にあるダンジョンを調査して来てと言われてしまった。

 正直な話、少女には初耳ワードを連発されてしまった。


 しかもその中の様子を撮影して来て欲しいと言われてしまった。

 驚きと困惑で脳が支配されてしまったけど、お小遣いを増やしてもらえるということで、仕方なく引き受けた。本当は部屋で動画を観ていたかったのに残念だ。


 それで来てみたはいいが、まさかこんなに疲れるとは思っていなかった。

 山の中とは言っても別に歩き慣れているわけではなかった。

 おまけに、それまで色んな手続きを踏まないといけなかったのだ。


「市役所に行ってダンジョンに入るための許可証を貰ったけど、今度はこんな剣を渡されて……恥ずかしかったよ」


 市役所でダンジョンに入るための手続きを踏んだ少女はそこで謎の薬を飲まされた。

 味は全くなかったけれど、その後すぐに高熱が出て、市役所内の仮眠室で三時間ほどお世話になった。

 これだけでもの凄く恥ずかしかった。その場で顔から火が出そうになった。


 おまけに変な剣を渡されてしまった。

 ダンジョンの中は危険がいっぱいで、本当の意味で死ぬことはないけれど、何も対抗手段がなければ簡単に即死するような超危険環境の場合があるそうだ。


 特に少女がこれから行こうとしているダンジョンは未知数だった。

 普通は誰かが入って調べるんだけど、一般解放されていない個人が所有しているダンジョンのせいで、何にも分からなかった。


「おまけにお母さんも入ったことがないなんて……」


 ダンジョンは何処で見つかるか分からなかった。

 フィールドワークのために買った山らしいけど、まさかダンジョンがあるとは思わなかった。


「そもそもそんな危険なところに自分の子供を行かせたりしないよ!」


 少女は怒りが込み上げて来た。

 あんなに苦しくて恥ずかしい思いをしたのに、今度はこんな危険な所に何て信じられなかった。


 だけど来てしまったのは自分の意思だった。

 それを思えば自分が悪いよねと、諦めるしかないのだ。


「はぁー。こんなところで立ち尽くしてても仕方ないよね」


 もう如何でも良くなって来た。

 早く調査して早く帰ろう。

 少女は色んなことを心の中で諦めて、ペッキリ折ってしまった。


「そ、それに……もしかしたら楽しいかも。そ、そうだよ。ポジティブに考えてみよ」


 少女は感情を奮い立たせた。

 最近動画配信サイトでもダンジョン関連はかなり流行っている。バズっていると言ってもよかった。


 でも少女はダンジョン関連の動画よりも、普通にゲーム実況を観ている方が断然好きだった。

 まあ流行っているのは事実なのだが……


「でも、私には関係ないんだよね」


 とは言え少女に配信をする気はサラサラなかった。

 なのでスマホを適当にドローンにセットすると、まずは第一歩を踏み出した。


「よ、よし! 行こう」


 少女の足は震えていた。

 ブルブル震えていて、とっても後ろ向きだった。だけど偉大な一歩なのは変わらなかった。


 これが少女、佐鳥千世さとりちせが初めてダンジョンにやって来た最初の一歩だった。

 その足取りは重く、誰が見ても「行きたくない!」オーラが迸っていた。

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