第4話


少し寒いですか?

僕も寒いなって思ってたところなんです。

あー、ホントに寒い。

白い息まで上がりますね、この部屋。

けどここのエアコン壊れていましたから、

持ってきましたよ。ほら、灯油ストーブ。

すごい年代物なんですよ。

使ったことありますか?

さすがにありますよね、これくらい。

僕、灯油を中に入れるのがなかなか上手くいかないんです。

こぼれたら後始末大変ですもんね。

頑張って入れておきます。



あの日、俺は買い物行っていた。

今日は久しぶりの鍋にしよう。

お父さんもやっと仕事が片付くって。

おばさんはそういって、メモを渡した。

あの子も今手が離れないらしいから、お願いしてもいいかしら。

俺はいいよと言って、外に出た。

風も吹かない澄んだ空気に切り込んでいく。

夕日も俺を赤く照らしていた。

そう遠くもない距離にあるスーパーにつくと、

俺はメモに書かれたものを買っていく。

苦手なマイタケやエノキまで書かれていた。

絶対食べないでおこうと思いながら会計を済ます。

楽しみだった。

俺が初めて楽しみを感じたのは鍋をつまんだ時だった。

温かさが俺に染みていく。

「美味しいでしょ。」

あいつが俺の顔を覗き込むように聞いてきた。

なぜか、涙を流していた。

この温かみは縁遠いものだと思っていたから。

こうやって笑ってもいいんだ。

話してもいいんだ。

俺にはもったいないものだと思ってしまう。

でも、もしかしたらと考えてしまう。

こんな幸せを永遠に続けられたらと。

「もう、お前さんはここの家族じゃ。

 泣きたいんだったら好きなだけ泣けばいい。」

そう言ってくれたおじさんは、僕に連られて泣いていた。

相当酔っていたのかもしれない。

お酒はよく回ってまともに飲めなかった人だった。

「なんで、お父さんが泣いてるんですか?」

おばさんは笑うと、俺も笑ってしまった。

笑いが部屋を包み込んで行く。

この雰囲気が僕は好きだった。



完了です。

少しこぼしてしまいましたが、想定内ですね。

まあ、これでも思い出せませんか?

この石油ストーブ同じものを頑張って探したんですよ。

僕の苦労を褒めてもらいたいぐらいです。

後は鍋の用意ですね。

楽しみにしててください。




ここからが本番なんですから。



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