第5話


あ、煮えてきましたね。

美味しそう。

久しぶりに食べたくなってきました。

あーーー、何してるんですか?

あっそっか、聞こえないようにしてたんだった。

頑張って話したのに、残念。





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「あなたがちゃんと分かってないからですよ。

 分かるでしょ、ここまで揃えたのに。


 『赤城一家殺人事件』


 分かりませんか?

 あなたは僕を絶対知っているはずなんですから。」



買い物からの帰り道、パトカーが近所の公園に止まっていた。

俺は覗き込んだ。

おじさんが乗ってるかもしれないと思ったからだ。

けど、誰もいなかった。

回りを見渡しても警察官らしき人物はいない。

俺はなんだか不安を覚えた。

急いで家に戻る。

ドアを開いた。

そこにはおばさんとおじさんが廊下に倒れていた。

俺は駆け寄ろうと走った。

けど、動くことができなかった。

助けたい、その気持ちはあるのに、

恐怖で動けない。

どうすればいいのか。

その時、奥の居間で声がした。

「早く逃げて。」

あいつの声だ。

いつもより声が弱弱しい。

「ここから早く、出なさい。」

力を振り縛って言っているのだろう。

俺は逃げられなかった。

足が動かない。

もしかしたら、すべて俺のせいなのかもしれない。

俺がここにやってきたから。

俺が欲しがったから。

それなら、俺はなんなんだ。

俺はあいつのところに行った。

もしも助けれるのなら助けたい。

あいつは死んではいけない。

あいつは居間にいた。

机には鍋の用意がされてある。

近くには見覚えのない石油ストーブが置いてある。

その周りには青いタンクが横に倒されている。

まるで家が浸水しているようだった。

あいつは言った。

「早く逃げてって言ってるでしょ。」

あいつは腹を刺されたのか、血が服ににじんでいる。

息が荒くなっている。

僕はあいつを担ごうとした。

「やめなさい。

 あなたは逃げて。」

そういうあいつは泣いていた。

体格差があるあいつを外に連れ出すのは無理があるのは分かっていた。

でも、救いたかった。

あの日救ってくれたあいつはどんな思いでいたのだろうか?

やっとわかったのかもしれない。

ただ助けたいという気持ちだけしか残らない。

「もういいよ。

 私もそう長くない。

 もともとここまで生きる命じゃなかったから、

 ホントに奇跡だと思ってるんだ。

 でも、君はまだ生きれる。

 私は君に生きてほしい。

 だから、早くいって。

 お願いだから、早く。」

俺は何も声に出せなかった。

「運命は回りに回って、変わるんだよ。

 絶対あきらめるなんて許さないから。」

あいつはそう言うと、俺を開いた窓に向かって力いっぱい突き放した。

ゆっくりと落ちていく俺の目に炎が見えた。

あいつが笑っている。

笑いながら泣いていた。

俺は何も変えられなかった。

燃え盛る家を見ているだけだった。



「そうです、当たりです。

 あの時と同じ状況なんですよ。

 思い出せましたか?よかったです。」




「じゃあ、最後の晩餐としましょうか。」

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