第2話


あいつは良い意味でヤバイ奴でした。

今でも考えるとホント、どうかしてると思いますよ。

それもあいつらしいと思えばあいつらしいですね。

あいつは僕を見つけた瞬間、駆け寄ってきたんです。



「君、大丈夫?」

本当の阿呆だと思った。

周りの奴らと比べたって一回り小さい。

喧嘩なんてやったこともない、貧弱な体。

けど、俺から見たあいつの背中はとても大きく見えた。

結果はご想像の通りです。

あいつもぼっこぼこにやられていました。

俺の身代わりといったら聞き心地はいいですけど。

それからしばらくして、警察がやってきた。

男たちは見るなり逃げていった。

「あー、やっぱり痛いね。」

そういったあいつはなぜか笑っていた。

俺は意味が分からなくなった。

なんで助けた?

いつの間にか、僕はあいつの胸倉をつかんで愚痴をこぼしていた。

溜まった浴槽の水を流すかのように。

「お前。

 なんで助けたんだよ。

 そこまでして、なんで俺を助けるんだ。

 どうして?

 俺は。

 なんで、なんで死なせてくれないんだ。」

あいつは俺をぎゅっと抱きしめた。

あいつの体はに小さな火が灯っているかのような、そんな温もりを感じた。

「運命はね、回りに回って自分に返ってくるよ。

 生きている限りね。

 僕もそうだったから。

 今日僕と君は出会った。

 だからね、君の運命も必ず変わるよ。

 僕が約束するから。」



不思議と説得力があったんです。

僕はそう言ったあいつの言葉を信じたんです。

あいつのうざったい笑顔とおせっかいなところは嫌いでしたが。

幼い僕にとってはあいつは救世主でした。

僕をあの暗い箱の中から助け出してくれたのですから。

可哀そうだと思っていますか?

えーと、よくわからないですけど、

思ってくれたということにしておきますね。

そこから、あいつの家にお邪魔になることになったんです。

親も親、子も子っていうのは本当なんですね。

あいつの家庭もちょっとおかしかったんですよ。

こんな見ず知らずの僕を引き取るって言ってくれたんですから。

頭のねじがどこかに転がってるんじゃないかと、

今となっては思いますけど、本当によくしてもらったんです。

こんな日々が少しでも続いていたらと今でも思うんですが・・・。




でも、長くは続くことはありませんでした。

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