骨を砕く日
えりぞ
骨を砕く日
10代の夏のある日、縁があり1歳で亡くなった方骨を砕いた。そののち、今度は80代と60代で亡くなった方の骨を砕いた。以来ずっと、その日の影響を受けている気がしている。
寺の本堂には空調がなく汗が滲む。俺はひとりで正座をし合掌して真新しい骨壷を開けた。四十九日を終えた骨はほんの少しだけ残っていた。
骨になった彼は一歳だった。活発な子だったと聞いた。会ったことはない。遺影…結果的に遺影になってしまった写真だけ見た。
死因は病気としか聞いていない。聞いていいものかどうかも判断がつかず、ただお悔やみを述べて頭を下げるしかできない。彼の家のガレージの前には彼のものであったろうプラスチック製の玩具の車があった。アンパンマンは優しく笑っている。
子どもが子どものまま死ぬということは、ひどく悲しいことなのだろう。
俺は比較的良く残っていた大腿骨と思われる骨を箸で取り上げ、台に敷かれた紙の上に置いた。専用のトンカチで優しく叩くと、乾いたウエハースのような表面が割れ、叩いたところは粉々になった。
幼く、まだ骨の形成が未熟なのだろう。骨粉のようになった骨の一部を納骨堂に安置するための白い骨壺に入れる。形が残った骨は箸で。紙の上に散らばる骨は紙を持ち上げてサラサラと粉薬のように骨壺に吸い込まれていった。
「朝には紅顔ありて、夕べには白骨となれる身なり」
一言では言い表せないことだ。人は死んで骨になる。全員がそうなる。
1歳で死んだあの子はどこへ行くのだろうか。それとも人間は脳の中の電気信号に過ぎず、どこにも行かず消えるのだろうか。
幽霊でも残像でも嘘でもいいから、どこかにいて欲しい。
仕事が終わったので本堂の扉をすべて開け放った。よく晴れていた夏の日で、田舎だから蝉の声がうるさい。どこかで鳥も鳴いている。俺たちも別に蝉と違うところはない。ただ消えていく。
骨を砕く日 えりぞ @erizomu
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