連作短歌「旅の歌/二十首」

虹岡思惟造(にじおか しいぞう)

「旅の歌二十首」


「三陸海岸」                       


蕪島は朝から強風注意報うみねこ着地タッチアンドゴー       


餌を求め船に集まるうみねこの眼差し鋭し恐竜のえい         


日の出から数分間のショウタイム舞台は浄土が浜の海と空      


海に来て海を見るには防潮堤上がればならぬ復旧の海


「安曇野」


安曇野の犀川渡る皐月風アオハダトンボの翅を揺らしぬ

 

蓼川に馴染んで久し水車小屋巨匠の夢の舞台なりしか

  

入口の絵に癒されて柄になくほっこりと観るちひろ美術館


安曇野の脇街道の道祖神手に手を取りて仲睦まじく


「京都」


浄土宗総本山の宿坊が旅の始めの今宵の宿


青い眼の雲水混じる托鉢の列通り過ぐ四条大橋  


青紅葉滴る寺の奥深く戦国武将の墓所はありけり


京老舗カフェでほうじ茶飲みながら積もる話せり旧友夫妻と


「熊本」


落椿赤累々と地を覆う薩軍攻めし城の二の丸

 

薩軍の本営跡の碑がつくる影の先に咲く蓮華草の花

 

薩軍の敗走せし跡たどる旅赤い椿の咲く峠道


敗残の路に咲きたる白椿兵児へこの最期を愁う涙か


「沖縄」


熱帯魚群れる八重干瀬やびじのシュノーケル無我夢中の時を過ごせり


西表いりおもての夜空いっぱい横たわる銀河の流れに息を飲み立つ


シーサーを粘土で作るアクティビティひねくり回して怪物となる


青年は「なんくるないさー」と言い残しスコールの街歩み去りたり

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連作短歌「旅の歌/二十首」 虹岡思惟造(にじおか しいぞう) @nijioka

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