第17話それぞれの役割り。

「部隊編成の、えっと・・、特殊戦闘車輌RCXー06マタギ×3機に歩兵班×3(各班10名)、それと情報分隊×2(各分隊6名)って言われても、私たち兵隊さんじゃないし、ピンと来ないんですけどォ・・・」

 楓が少佐に詳細な説明を求めた。


 それに付け加えるように、「班より分隊の方が人数が少ないのですね?」


 美鈴も質問を繰り出してきた。


「作戦行動中なので私が説明いたします」

 黒石少佐に代わって、補佐官であり本来歩兵小隊を指揮している九宝・大輔くほう・だいすけ陸士少尉が説明を始めてくれた。


「では、最初に異国のお嬢さん。まずは貴女の質問にお答え致しましょう」「私、こう見えても生まれも育ちも日本なんです」

 いきなりのカウンターパンチを食らい、「失礼」と気を取り直して九宝少尉は説明を始めた。


「陸上国土防衛群では小隊の下に10名で編成された"班”があり、4~8名の"分隊”、そして2~4名の組員で構成された”組”に分かれます。ちなみに小隊は数個の分隊か班によってなります」

 小隊の下でも随分と分かれているものだ。


 とてもではないが、先が長くなりそうなので、3人はそれより上の編成を聞く気にはなれなかった。よって、誰一人として質問をする者はいない。


「では”山岳機動小隊”の各部隊の役割について説明いたします」


 "マタギ”ことロック・キャリバーは直接イーターと戦う戦車の役割を果たす。


 随伴歩兵の任務は、各機に1班ずつ随伴し、視界の限られたロック・キャリバーの目となり周囲を索敵・警戒する。歩兵10名のうち一人はイーターに対抗できる対機甲装備で任務に臨む。


 そして、研究員たちが一番の謎としている情報分隊の役割は。


「山岳地帯での、枝葉など障害物の影響を受けにくい球体型飛行ドローンを使用し、各機に2機付き従い、1機はキャリバーの背後に付いて操縦補佐に当たります」


 操縦補佐とは、比較的障害物の少ない地形までパイロットたちの負担を減らすために、ロボットアクションゲームのようなバックビュー画面を構成するための背後からの映像を撮ってARに映し出している。


 ドローンは長時間の飛行が不可能なために、随行する歩兵に予備のバッテリーを持たせている。


 そしてもう1機は同行している戦闘ヘリよりも低い位置から索敵を行うためにキャリバーの移動先を先行して飛行する。いわゆるハイテク斥候という訳だ。


 その他に、山中に人がいないかを確認する任務も担っている。意外と忙しい部隊なのだ。


「相手が武器を持った人間なら絶対に組まない部隊編成ですね」

 音を立てるドローンに、火力はあるけれど頼りない装甲をまとった人型兵器。それを守る随伴歩兵。


 大所帯な上に、相手が軍隊ならば確実に返り討ちに遭ってしまう部隊編成だ。


「随分と気合いの入った”山狩り”部隊なんスね」


「その認識は大きく間違っているわよ」

 作戦指揮に当たる黒石少佐は、各ドローンから送られてくるモニター画像に目を配りながら元哉に告げた。


「山狩りで済むなら良いけれど、敵を逃せば確実に被害が出てしまうと念頭に置いておいて。私たちに与えられた任務は、確実に山中で敵を葬ること。決して抜かれてはならない」

 山岳地帯での迎撃は、最前線であると同事に最終防衛戦でもあるのだ。


「で、九宝少尉はここで何をされているのですか?」

 少佐の力説を聞き終えた楓が少尉に訊ねた。


 すると、少尉は少佐を目線だけで見ながら引きつり笑いを起こし始めた。

「じ、実はまだ急ごしらえの部隊でして・・・この山岳機動小隊がですけど。本来なら普通科小銃小隊は2つか3つの班で構成されているのですが、今回2つの班で構成された小銃小隊を山岳機動小隊に組み込み、その際、1つの班が―」「つまり余っちゃったワケですね」

 歯にもの着せぬ楓の言葉に、少尉は一瞬心臓が止まりそうになった。


 道理で長々と学院生たちに説明をしてくれていたワケだ。3人は納得した。


 ついでに指揮車輌及びテントの周囲を警戒している歩兵達も、余った班の隊員たちなのであろう。


 これについては警戒も必要と少佐の上官も仰っていた事だし素直に納得しておいてやろう。


 3機のマタギが山中に入って20分が経過した。


「先導ご苦労。これより通常視界に切り替え、索敵任務に当たる」

 鷹子からの報告通信が入った。


「先導??」

 楓が首を傾げた。すると。


「大尉たちがゲームを終えたって事さ。以降通常視界で作戦に当たるってさ」

 少し語弊があるが、元哉の言っている事は的を射ている。


 球体飛行ドローンによる視界補佐が終了したのだ。以降はマタギの頭部に搭載された視覚機能オプチカルシステムでのモニターがメインとなる。


 少佐はこめかみがピクリと脈打つのを感じたが、あえて何も言わなかった。


 作戦指揮所のモニターに映る三角のマーカーはそれぞれの進行方向を意味する。青はマタギを、緑は随伴歩兵を、そして球体飛行ドローンはピンクで表示されている。


「2班!マタギに近付き過ぎるな!そいつは戦車のように守ってはくれないぞ!」

 少佐の怒号が飛ぶ。


 それにしても、つくづく信頼性の低い戦闘車輌だ。


 少佐の指示通りに、青のマーカーから緑のマーカーが散ってゆく。索敵範囲を広げたのだ。


 距離はまちまちなのは山中であるからで、各隊員たちは両隣の隊員を視認できる距離を保ちつつ前進。


 彼らが頭部に装着しているカメラからの映像を、指揮所のモニターでも確認している。


「ターゲットドローンって、どんな形をしているのですか」

 よくよく考えてみれば、評価試験が始まる前に見せてもらえなかったのを思い出した。


 まぁ、どうせ小隊に同行させている球体のドローンだろうと、大して期待していなかったら。


「私も知らないわ」

 意外な答えが返ってきた。


 じゃあ、彼ら山岳機動小隊は何を探して山の中をさまよっているのか?

 

 

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