第16話山岳機動小隊。
AIの学習能力は凄まじく、ロック・キャリバーは人間と差異の無い動きを見せるようにまで進化していた。
ただし、コントローラーは未だ市販のゲームパッドとさほど変わらない物を使っているので、入力できるコマンド数は限られているが・・・。
ここに来て動作選択肢の少なさが大きく目立ってきてしまった。
ロボゲー(ロボットアクションゲーム)ならばこれで十分なのだが、現実のロボットとなると、そういう訳にもいかない。
頭を悩ました開発チームは、ARゴーグル内で行われる視線操作入力に突っ込めるファンクショキーの数を増やして対応に当たった。
視線操作入力とは、AIゴーグル内に投影されるファンクションメニューに視線を移し瞬きを3回行ってメニューを開く操作システムの事である。
瞬きの数は2回ではなく、3回。それは、2回だと無意識に瞬きをする場合が多く、誤作動が生じる可能性があるので、無意識と認識されない3回となっている。
それでも誤作動が起きる可能性はあるけれど、4回、5回と増やせば良いというものでもない。そんなに回数を増やしてしまえでば必ずワンテンポ遅れた操作になってしまう。
だからまばたきの数は3回と決められている。
『人間と同じ5本指の手をしているのに、掴む動作を取り入れずに、ただバランス調整のためだけに使用しているのは勿体ない』
テストパイロットたちから、こんな意見が出た。
ロック・キャリバーは人間と同じ手を持っているにも関わらず、自らの手で弾薬補給はおろか、物を掴む事すらできない。
「お手々なんて飾りですよ。偉い人には解らんのですよ」
これ以上仕事を増やしたくない楓は会議の場で思いっきり言って見せた。
それに反論するように岳は黒石少佐へと向き。
「イーターと異常接近する可能性を考慮して近接戦武器を持たせるなんて、いかがでしょう?」
「抜き身の武器を持たせるつもり?アナタ、何を考えているの?キャリバーの周辺には随行歩兵もいるのよ」
歩兵たちにとっては、危なっかしくて仕方が無い。鷹子は反論した。
「だったら、盾を持たせるとか」
岳はなおも食い下がる。
「積載重量に余裕がありません」
話にならないと、一蹴された。
そもそも"物を掴む”という動作は人間にとっては容易い動作の一つに過ぎないが、ロボットにとっては超が付くほどに難易度の高い動作である。
AIに学習させるにしても『自らの手で掴めるか?持ち上がる重量なのか?さらには、触れて壊れないものなのか?』を判断させるに至るには課題は盛り沢山となる。
これまで、完成実機を歩かせ実弾砲撃へとこぎ着けるだけでも1年4ヶ月の歳月を費やしてしまった。
そんな中、未だ山岳地帯にイーターが出現していないだけでも幸運だったと言える。
だが、いつまでもこの幸運が続くとは限らない。
イーターの出現報告は、日本国内において、相模湾襲来以降、北海道の釧路で2体が確認された以外は無いが、いつ何時彼らの襲撃を受けるか定かでは無い。
幸い、イーターは畑のど真ん中を縦断中だったので、ヘリ部隊による対地ミサイル攻撃によって撃退したものの、山岳地帯に出現されれば戦闘ヘリでの撃退は難しくなる。
上層部は、条件が整い次第、ロック・キャリバーを実用化したいと考えている。
「これ以上のアップデートは、今回は見送る事とします。開発チームには、これまでのデータの最適化を目指して評価試験に臨んで頂きます」
手の動作追加は見送られてしまった。
本当に、これで良いのかねぇ・・・。
不満を抑えきれない岳は、会議室から立ち去る少佐の背を、敬礼しながらも頬杖をついて見送った。
今回の会議での決定事項は。
①追加実用動作を視覚操作入力に組み込む。
②ロック・キャリバー用近接戦闘用装備の開発はしない。
③新たな手の動作は組み込まない。
④ロック・キャリバーの型式番号をRCXー06とし、コードネームを”マタギ”と称する。
①と②と③は明らかに苦肉の策でしかなく、④なんて取って付けたような決定事項だ。
正直どうでも良い。
・・・とは思うものの。
マタギとは山岳地帯で"狩猟を専業とする”人たちの事を意味する。
地方独特の呼び名ではあるが、山岳地帯を専門に活動するロック・キャリバーにはお似合いの呼び名と言える。
山岳地帯で活動とは言っても、岩肌にペグを打ち込んだりワイヤーロープで崖を登る訳でも無いので、この名がしっくりと来る。
3日後。
とうとう最後の実用評価試験が開始された。
実用評価試験とは?
実戦形式で行われる、”山岳機動小隊”編成を組んでの山中評価試験の事である。
―山岳機動小隊編成―
特殊戦闘車輌RCXー06マタギ×3機
歩兵班×3(各班10名)
情報分隊×2(各分隊6名)
の編成からなる。
さらに、方面航空隊より対戦車ヘリコプター1機が共同任務に当たる。
「ほ、本格的ですねぇ・・・」
実戦さながらの緊張した雰囲気に呑まれた名古屋工科大学の学院生たちは高揚感を抑えきれずにいた。
見る物すべてが映画や映像では無く、本物の世界。
恐怖よりも好奇心が勝っていると自覚する。
「これよりイーターに見立てた仮想敵ドローンの撃破作戦を開始する!」
実戦形式の評価試験が開始された。
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