第14話USA!USA!USA!その声は次第に小さく。

 主砲射撃評価試験を遠目に眺めていたアメリカ海兵隊員及び陸上国土防衛群の対戦車専門部隊隊員たちは思わず息を呑んだ。


 人型のロボットが、片腕だけで戦車砲を発射している。


 しかも、走行しながら・・・だと!?



 当初は機体を停止させてのみ戦車砲の発射が可能と思われたロック・キャリバーであったが、試しに戦車と同じく走行砲撃を行ってみたところ、機体は大きく揺らぐものの、発射そのものは可能な事が分かった。


 ただし、ロック・キャリバーの最高速度が50㎞/h・hに対し30㎞/h~35㎞/h時のみ可能だと判明した。


 慣性の維持など様々な要因が作用し、非常に限定的ではあるが、走行砲撃が可能で、命中精度は格段に落ちるものの、可能に越した事は無い。


 アメリカ海兵隊の隊員達は青ざめた表情で、自分たちが随行させている4足歩行の装備運搬用ドローンとロック・キャリバーとを見比べた。


 アメリカ陸軍が正式採用している4足歩行装備運搬ドローン、通称”donkeyドンキー”、正式名称”Sling Pannierスリング・パニアー“(ロバや馬に取り付ける荷物カゴのこと)は、ロック・キャリバーと同じ電導性伸縮ゴムと液体バッテリーを採用した無人ロボットだ。


 サイズも生物のロバとさほど代わりはない。

 見てくれは頭はおろか首すら無い、胴体から4本の脚が生えた愛嬌の欠片も見受けられない代物である。


 最大積載重量が130㎏と、1個小隊分の予備弾薬と食料等を運搬でき、山岳地帯でも随行できる優れものだ。


 だけど、ドンキーの機能はそれだけに止まる。


 一方、ロック・キャリバーは山岳地帯において重火器の運搬どころか使用までこなしている。


 これが、アメリカ海兵隊員達が驚いた理由だ。


「まぁ驚くのは無理も無いッスね。あのドンキーとロック・キャリバーは開発されたコンセプトそのものが異なりますから」

 したり顔で黒石少佐を見上げながら元哉が告げた。


 ドンキーは歩兵の負担を減らすべく開発された、運搬用ドローンのひとつに過ぎない。


 歩兵が行軍事に携行できる最大積載重量は約50㎏。それでも3日分でしかない。


 タンクデサント(戦車の上に歩兵が乗って移動する手段)が使えない山岳地帯ではそれ以上の荷物を運搬するために、運搬用の人員を用意しなければならない。


 だが、ここで問題が発生する。


 彼らも”人間”であること。


 当然食料も水も必要であり、最大積載重量の50㎏から武器の重量を引いたところで数人分しか余分に運べない。


 予備の弾薬、食料を1個小隊(約40人分)分を運ぶには、飲まず食わずの随行者が必要になる。


 それがドンキーなのだ。


 画期的な運搬ドローン。だけど、彼らが運べるのは、せいぜい1個小隊分でそれ以上の部隊行動となると、数を揃える必要が出てくる。


 大量生産だ。


 それに加えてメンテナンス性の確保も必然となる。


 求められるのは生産性とメンテナンス性。なので、部品の数は限りなく少なく構造も簡略化しなければならない。


 一方のロック・キャリバーは。


 戦闘を前提にしながらも、相手は随伴歩兵を従える戦車ではなく、野生動物をより凶悪・凶暴化した異世界生命体。


 求められるのは戦車砲の発射に耐えられる強靱さだ。


 開発設計にあたり、一から新素材の電導性伸縮ゴムの開発をしているほど時間的余裕はなく、従来型を流用するならばとAIが導き出した答えは"人間の筋組織”をエミュレートしたもの。


 つまり、人間の筋肉組織と同じ構造を持った機体を作り上げる事だった。


 医学の導入。


 人間の筋肉構造を、研究に研究を重ねて、内臓部分をコクピットへ、脳に当たるアビオニクスもコクピットへと移し替えた先に見出され設計されたのが、現在のロック・キャリバーの素体である。


 だから、一見過剰装備に思える5本指の手でさえも必要であり、足もブーツに隠れてはいるが、中には5本指に分かれた足が存在する。


 初めてロック・キャリバーの機動を目の当たりにしたアメリカ海兵隊員が漏らした『中に人が入っているんじゃないだろうな』の一言は、あながち間違いでもなく、ロボットでありながらも限りなく人間に近い車輌なのだ。


「これじゃあ、我々のドンキーが、まるでホンモノの”donkeyとんま”じゃないか・・・」

 比べるもなく、同じロボットでありながらも、これほどまでに差を見せつけられては言葉も出ない。


「うわぁ・・・アメリカさん、随分と驚いていますねぇ」

 口をあんぐりと開けてロック・キャリバーを眺めている海兵隊員達を見やりながら楓が告げた。そして黒石少佐へと向き。


「多分、彼ら、こう考えているでしょうね。『何でアレに人が乗っているのか?』と」

 少佐に疑問を投げかけた。


 すると少佐は前髪を描き上げながら。


「命を持った敵が攻めてくるのよ。こちらも命を懸けて迎え撃つのが礼儀というものでしょう」


 何?この武士道精神・・・。


 呆れてものが言えない。


 楓はしみじみと感じる。


 日本は今日もクレイジージャパン。

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