第13話主砲発射!!
副武装の射撃精度は、戦車上部にて車長が発砲する際とさして変わらない評価を得た。
ターゲットをロックオンした状態で、今度は移動しながらの実弾発射評価試験に移行。
戦闘車輌では当たり前に行われる移動と射撃又は砲撃の同事行動。
しかし、歩兵の場合は戦闘中に味方の兵たちが移動を行う際、移動を行う兵を動いていない兵が敵兵に向けて牽制射撃を行い援護をする。
敵兵に向けて走りながら発砲するなんて、命中精度は格段に落ちるし、残存兵が一人でない限り行わない。
ロック・キャリバーはそういった点で、やはり車輌なのだと鷹子は感じていた。
(なかなか当たらないものね・・・)
焦りを見せながらモニターを2号機へと移す。と。
移動しながらだというのに、2号機は見事にターゲットに
2号機に搭載されている副武装が1号機や3号機よりも軽量でかつ反動も小さい小口径の機関銃だから?
それも理由の一つではあるが、明らかに経験値の差が出ているのだと理解した。
さすがに走行時に生じる上下の動作には対応出来てはいないものの、岳の2号機はターゲットを外さない。
戦車乗りとして培ってきた経験はロック・キャリバーに生かされているのだ。
これは大収穫だ。主任の黒石少佐が思わずニヤリと笑った。
―主砲射撃評価試験―
機体の具合を確かめ、調整を終えると、3機は再び射場へと戻った。
とうとう主砲射撃がはじまる。
サイレンが鳴り、試験開始。
ますは1号機が腕を水平位置に上げた。
「1号機、右肩部および右肘部関節をロックします」
告げて鷹子は関節をロック(固定)した。そしてターゲットに照準を合わせる。
仰角・俯角の上下調整は肩部関節をロックしている以上、腰部関節で行う。
肩部関節の一カ所で戦車砲の反動を緩衝するのは難しく、固定しておかないと砲弾が何処へ飛んで行くか分からない。
だからあらかじめ肩部関節と肘部間接とをロックする必要がある。
さらに腰を落として、右足をすり足で前へと突き出す。
「
反動は駐退機と腰部で抑えて、腰部が若干仰け反った形を取った。
と同事に、機体そのものが後方へと擦り下がる。
「続いて2号機、実弾発射を許可します」
少佐からのGoサインが下る。
実弾と言っても実戦で使用する榴弾ではなく、火薬の入っていない同じ質量を持つ摸擬弾だ。着弾しても爆発はしない。
「あれれ?どうしちゃったんでしょう。寝住さん、あんなに砲撃評価試験を楽しみにしていたのに、まだ撃ちませんよ」
一向に主砲を発射しない2号機に楓は首を伸ばした。
「感極まって、中で感動の涙に溢れてるんじゃないんスか」
言った瞬間、少佐に睨まれている事に気づいて元哉は小さくなった。
「どうしました?2号機。トラブルですか?報告なさい」
少佐がマイクを取る。
「こちら2号機、右足下前方に障害物を発見、位置変更を願います」
「障害物?」
岳の報告に少佐はすぐさま双眼鏡を取ると、2号機の足下を見やった。
右足下に岩を発見。
戦車の履帯ならば差し当たって障害とならない高さ50センチほどの岩ではあるが、砲撃時に摺り足を行うロック・キャリバーにとっては大きな障害である。
途中で反動軽減動作が遮られてしまうと、反動を抑えきれずに後方へと転倒する恐れがある。
「こちら作戦指揮、位置の変更を許可します。3号機、先に砲撃評価試験を行ってください」「了解」
すると、3号機は腕を水平位置にまで上げながら右足を前へと擦り出す動作に入っている!?
その発射手順の間違いに気づいた少佐がすぐさま。
「3号機、主砲の発射を中止しなさい!今す―」ドォォォンッ!
中止命令は聞き入れられることなく、3号機は主砲を発射してしまった。
砲弾は!?
皆の視線がターゲットへと向けられた。すると。
3号機は見事ターゲットを粉砕していた。
その光景を目の当たりにした少佐は安堵のため息を漏らすと同事に力無く椅子へと腰掛けた。
「和泉試験官、今の3号機の挙動をモニターしていましたか?」
質問に、元哉は慌ててモニターを凝視した。
「3号機、肩部関節及び肘部関節共に異常ナシ!その他全ての関節に異常は見られません」
「現状報告はいい!3号機の挙動はどうでしたか!?」
元哉は再度モニターをチェック。
「3号機は主砲を発射する際に腕を前へと突き出しています。相撲の鉄砲の動きをそのままトレースして主砲を発射した模様」
その報告に少佐は思わず目を見開いた。
「あ、あの動きがそのまま実戦に使えるなんて・・・」
「ま、まぁ手を張り手を打つように広げておく必要はまったく無いんスけどね・・・」
少佐の驚く傍ら、さらに詳細な3号機の挙動報告を付け足した。
3号機の関節にストレスを与えずに主砲を発射した。この事実は人型兵器にとって革新的な事実として記録された。
「カッコイイ!作戦指揮、自分も、いや!2号機も今の3号機の挙動で砲撃を行ってもよろしいですか?」
岳からの申し出に「ダメです」少佐は静かに答えた。
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