第5話Vチューバーになる。
会議から4日が過ぎ、黒石少佐の圧に耐えられなかった整備士一同は、メーカーと一丸となって死に物狂いの思いで期日までにモックアップの仮装甲を完成させた。
ロック・キャリバーに求められたのは戦車や装甲車のような堅牢な防御力ではなく、あくまでも車輪及び履帯車輌が立ち入れない悪路に戦車砲を持ち込むこと。
早い話がパワードスーツを装着したポーターでも構わないのだが、異世界生物のイーターの
とにかく生身で相対したくない相手なのだ。
ロック・キャリバーは全高4.5メートルの有人型ロボットである。
装甲を
それに接地圧や最終課題である戦車砲の搭載及び弾薬の重量なども考慮するとMAX4500㎏以内に抑えなければならない。
それ以上の重量だと当初の目的である山に登る事はできない。
それらを考慮して2600㎏が装甲に割ける重量とされた。
余裕があるように思えるが、従来の戦車に採用されている複合装甲では全身はおろか脚部だけで重量オーバーとなってしまう。
それほどまでに戦車は装甲に重量を割いているのだ。
よって、徹底した軽量化が図られた。
航空機のようなチタン合金製だと1機あたりの費用が航空機並みと超高額で、予算を大きく上回ってしまう。なので却下。
では、アーマースーツと同じ素材にするかと妥協される寸前になって、それに加えてカーボン繊維の複合装甲が提案された。
ロボットなのに、結局はアーマースーツと大差の無い、カーボン繊維が加わっているので若干マシな装甲の採用となった。
この際、強度は目をつむるとして、とにかく軽量化には成功、重量の問題は見事克服された。
「出来ましたね」
新しい装甲の完成に嬉しさを隠せない楓は、しゃがみ込んでは装甲間を定規で測り要求を満たしている事に大いに満足している。
そんな彼女とは対照的に、寝住・岳はいぶかしむ眼差しでロック・キャリバーを見上げていた。
そして、脚部に触れ、コンコンと叩いてみる。
「音が軽いな。こんなので大丈夫なのか?」
どうも装甲強度への疑いが晴れない。
「まっ、大丈夫でしょ」
実にあっけらかんと楓は答えた。
直接搭乗しないからと楽観的な楓に殺意を抱いてしまう。いや!今は抱いてしまいそうと押し留めなければ。
そんな葛藤に苛まれる岳へ。
「実際に乗り込む訳じゃないですし、気楽に行きましょう」
「乗り込まない?コイツにモーションを組み込むんじゃなかったっけ?」
楓に訊ねた。
すると、楓は何やら全身真っ黒の衣装を取り出して岳へと突きつけた。
「寝住さんには、コレを着てもらいます」
言われて受け取った”それ”は何と、『全身タイツスーツ』!!
すると、隣のハンガーからも悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
鷹子の声だった。
そりゃ驚くわな・・・。しかも女性に体のラインがモロに出る、イヤイヤ、この際何で全身タイツスーツを着込まなきゃイカンのか?
同じ疑問を抱く。
「それを着たなら、今度はコレを付けますので体を楽にして下さい」
言って取り出したのは白色のピンポン玉よりも少しばかり小さな玉だった。
「これよりモーションキャプチャで寝住さんの動きをデータ化して記録しますね」
説明する最中、周りは黄緑色のシートで覆われ大勢のスタッフ達が現れたかと思えば周囲にカメラを設置してゆく。
「光学式モーションキャプチャと言って、映画とかではこれによって演者の動きを取り入れてCGのクリーチャーの動きに変えているんですよ」
この方式は、最近では、オッサンがCGで描かれた美少女の"中の人”を演じている事でも知られている。
次々と体に取り付けられてゆくマーカー。
指の節々にも取り付けられてゆく。
「随分とたくさん付けるんですね?」
「ええ。トレース動作を取り入れてキャリバーやAIに学習させて行くんです。工業用ロボットでも最初は人が手取足取り丁寧に教えて、より効率の良い動きをマスターして行くんですよ」
あのゲームパッドのようなコントローラーで操作する以上、一定の動作をコマンドとして入力しておく必要がある。
「湊女史、ちなみにどれくらいの数の動作を取り込むのですか?」
岳が訊ねた。
楓は目を閉じ「うーん」と考え込むと。
「だいたい1000通りといったところでしょうか」
「1000!!」
そんなに取り込む必要があるのか!?
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