第33話 渇望(1)
バークは武器工の仕事で培ってきたイメージを投影する。
鋭く、薄く、硬く。
熱した鋼に熱心に鎚を打ち込むように、魔力を注ぎ込み自身が思い描く最高の剣を想像する。
今までより洗練され、光をさらに凝縮した
しかしいくら武器の攻撃力を上げても当たらなければ意味はない。
バークは
「覚悟しろよ」
『通じない攻撃に対して何を覚悟しろと?』
実際にダメージを受けなかったものを警戒する必要はない。そう暗に告げる
『消えっ!? ──ぐっ……』
目の前からかき消えた
『私の体を……斬っただと!?』
後ろの気配に振り向きながら発した声に、余裕の含みは消えていた。
「心は割と脆いみたいだな」
一方、お返しとばかりに口角を上げたバークの姿に、
理想どおりの剣の切れ味と思った以上の
『ぬかせ小僧。私の怒りを買ったこと。後悔させてやるぞ』
『どうした? 体に傷が増えていっているぞ?』
二本同時に襲ってくる刺突に、バークは防御一辺倒になる。
だがそれでも治りきる前に新しい傷が次々と生み出され、瞬時に修復しない程の傷も刻まれていく。
人間のままであれば相手の動きに付いていけず、致命傷を負いすでに地面に伏しているだろう。
このときばかりは
『例え一矢報いたとて、仲間の手助けがなければすぐに瓦解する半端者の
先程までの怒りもなんのその。
切り飛ばされた小指も、街に漂っている負の感情を吸収しているのか、徐々に形を取り戻し始めていた。
「いつまでも舐めてんじゃねえぞ!」
無理矢理に黒い円錐を弾き飛ばし、バークは攻勢に転じる。
「元は人間に作られた存在なのに、命を得て負の感情を糧にするからって、そんなに残忍になれるのかよ!」
誰かに使われ、愛用され、いつかは役目を終えていく物たち。誰しもが丁寧に扱っているとは言わないが、少なくともダリアの手袋であったこいつは、必要とされ大事に使われていたはずだ。
それなのに
『我ら
あくまで体と魂は別物だと主張する
愛情を注がれた非情な道具。それが私たちなのだと、巨大な白い手袋は傲慢な視線で、バークを見下ろした。
「問答しても無意味だってのかよ……」
『元から貴様と問答するつもりはない。すべては食事ついでの余興に過ぎないのだからな』
互いの武器で弾き合い、距離を取った一人と一体。
ほんの少しでも、ダリアから受けた想いが相手に残っていたならと、バークは淡い期待をしていた。
しかし受けた愛など私の心には残っていないと
ならば自分のやれることは一つだけと、バークは
『また槍で突くつもりか? 芸のない』
例え槍に形状を変えられても対処できるように、
これでは先程と同じ戦法は使えず、隙を見せればカウンターさえ喰らってしまうが。
『なんだこれは!?』
バークの剣筋に慣れた
『これで捕らえたつもりか?』
投網に捕らえられた魚のように藻掻く白い手袋。
滑稽に思えるが、悠長に眺めている訳にはいかない。
バークは網の内側を鋭い刃物にするイメージを付加して、魔力を込めた
『ぐっ……』
手首部分が斜めに裂かれ、親指と人差し指、治りかけていた小指まで切り飛ばされる。
中指と薬指がたたらを踏み、辛うじて転倒を免れたが、
「これが半端者だからこその知恵だ!」
反撃を警戒し、距離を取りながらバークが吠える。
人間で言えば
しかし時間をかければ回復してしまう。このまま一気に畳みかけて、コアを砕こうと最初から
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