第24話 原因加速(2)
「なっ!?」
突然のことに驚き、バークはナイフを差したベルトを外して投げ捨て。
バサッと落ちた直後、大振りのナイフは留め具を壊し地面を滑ったかと思うと、手足を生やし大きく裂けた口から鋭い刃を覗かせて威嚇してきた。
「いつの間に!?」
自分の持ち物が
どんな物でも
初めて
「ティア、後ろ!」
メルが相方の後方に注意を促した。
何事かとティアが振り向くと、通りに並んでいた屋台が鎌首をもたげるように立ち上がり、載っていた果物がゴロゴロと転がり落ちていく光景が視界に入った。
「なぜ
普段は一切動揺しないティアすら目を見開く。
民家に立てかけられていたホウキが、雨水を貯めていた樽が、屋根に乗っていた風見鶏が、次々とギラついた瞳を光に反射させながら動き出す。
「まさか王が近くにいるの!?」
複数現れた
以前、
バークたちを囲うように集まってきた異形に、メルとティアは焦りの表情を浮かべていた。
「気持ちはわかるが、今は王がどこにいるか探してる場合じゃない! こいつらを先に片付けるぞ!」
危険を察し逃げていく人たちに巻き込まれないよう、バークは二人に叫びながらダリアを路地に行かせ、軒先から通りの様子を一瞥する。
「ダリアはここに身を隠していてくれ。俺たちから離れるほうが危険だ」
下手に逃げ惑えば
指示にダリアが頷くのを確認すると、バークは通りのド真ん中に躍り出た。
「数で私たちを圧倒できると思わないでください」
すでに冷静さを取り戻したのか、ティアは
「
屋台の
「えっ?」
零れ落ちるように落下していくコアの欠片に、メルは拍子抜けして自分の拳を見つめた。
「
巨大な光るハンマーを生み出し、歯を剥き出しにした樽をコアごとぶっ叩く。
木の板が弾け飛び派手に吹っ飛んで民家の石壁に衝突すると、一瞬でただの樽に戻り、ゴロゴロと地面を転がった。
「こいつら動きが単調だから俺でもやれるな」
不意打ちをしようとしてきた柱時計の
「数は多いですが、大したことないですね。運動不足ですか?」
ティアが氷の槍を放ち、相手を凍らせ動きを止める。
半身を封印された幌馬車は藻掻きながら氷の破壊を試みるが、絡みついた分厚い氷山を削ることしかできていない。
「ティア、こいつらのコア、素手で破壊してみて」
「……? よくわからないけど、わかりました」
メルに言われティアは凍って動けなくなった
「これは……」
割り崩れていく赤い破片に、ティアは訝しげに自分の拳を開いたり閉じたりして感触を確かめた。
「
二人がやりとりを交わしている間、自己研鑽するかのごとく
輝く矢が軌跡を描きながら突き進み。それを視認した風見鶏の
真っ直ぐに飛ぶ矢は何もいなくなった空を突き抜ける。と思われた直後、急カーブを描き背中から鳥の胸を貫くと、コアを砕かれた
「よしっ、命中!」
バークに弓矢の才能は無いが、イメージ通りに武器が創造できるならもしや、と思って矢の軌道を変えるイメージを送ったら自分の意思に従って飛んだ。
確実に戦いの勘と経験値を得ていっている感覚に、バークの胸は高揚感に湧いていた。
「これで全部だな」
周囲を一巡し敵がいないことを確認する。見えない場所に潜んでいるのでなければ、現れた
「ダリア、怪我はないか?」
「大丈夫なの。守ってくれてありがとうなの」
戦いの収束を察しダリアが通りへ出てくる。逃げずに家や店に隠れていた人たちも静かになったのを機に窓や扉から顔を覗かせ始めた。
「ん? どうした?」
メルとティアが話し合っている姿に、バークは何かあったのかと寄っていく。
奇妙な体験をしたように困惑顔の二人は、事情を静かに語り出した。
「二人で確認してみたけど、今の
「おかしいって何が?」
頭に疑問符を漂わせている男にメルは言葉を強調しながら言った。
「コアが異様に〝柔らかかった〟のよ」
この拳で確かに感じたと示すように、メルは右手を上げてグッと握った。
「通常、コアは宝石のように硬いものなんです。ですが先程の
相違ないと告げるようにティアも事態の奇妙さを証言する。
「普通とは違う
先程の敵たちのコアの手応えは軽く、土の塊が崩れるように壊れていたとバークも思い返した。
そういう個体もいるのだろうと、なんとなく感じていたが、どうやら事情に変化があるようだった。
「理由はわからないけど、心に留めて置いた方がいいわね」
つまりこれは未体験のことだから警戒するようメルは口にする。
十年以上の経験がある二人が初めて目の当たりにする事象。何がおかしなことが起きている空気に、バークは真剣な眼差しで問うた。
「王とやらはいないみたいだが、こんなに
「私たちの城が襲撃を受けたとき以外に見たことはありません。何か異常事態が起きていると考えるのが妥当だと思います」
「あいつらの動き、明らかに私たちを狙って出てきてたわね」
ティアもメルも仕組まれた襲撃であろうと判断している。今までの流れから考えると、ほぼ確実に今回の事件に関わっている
「襲撃を指示したリーダー的な存在がいる可能性が高いってことか」
基本は単独行動をしている
「私たちへの挑戦状ね。いい度胸じゃない。受けて立つわよ」
「この事件、是が非でも解決すべきですね」
メルは拳をパンッと手のひらに当て、ティアは闘志を静かに滾らせる。
普通とは異なる
益々深まる謎にバークも気合いを入れ直した。
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