第69話 インスマウス教会調査団、結成!
その日はもう色んなことがありすぎてヘロヘロだったので、俺たちは教会に帰ってからそろってみんなベッドにぶっ倒れた。
中々にハードな一日だった。戦闘、救助、からの交渉と締結。改めて考えると頭も体も使ってたんだな俺。
そんな訳で食事もとらずにぐっすりと入眠し、俺たちは夜を明かした。
そして翌朝、空腹に起きてくると、すでにみんなが食堂に揃っていた。
「あ! 教授、おはようございます」
「おはよう、ダニカ。みんなもおはよう」
「おはようございます」「おはよう、ございます……っ」
ハル、パーラは普段通りの挨拶だ。しかしすぐに表情を曇らせてしまう。
そしてもう一人。
「……あ、きょうじゅ。おはよ……」
心ここにあらず、という態度で、リリは呆けた様子でスプーンを口に運んでいる。
その様子を見て、俺はダニカに視線をやった。ダニカは俺を見て、困りの感情強めに苦笑する。
ダニカはやはりインスマウス教会の長だけあって心を強く持っているようだが、他の面々はそうもいかないらしい。特にリリは、様々な要因でメンタルをだいぶやられている。
これは……どうしたもんかな、と俺は口を曲げる。その時、俺の背後から声が響いた。
「猶予は、一週間ですので~……っ。それまでに、うまくやってくださいね~っ、教授」
振り返るが、すでにそこには何もない。ミノラはちゃんと監視している、ということだ。まぁ俺は全く悪くないので、うまく働いてもらおう。
俺は今後の動きについて吟味する。ガブリエラはガブリエラで動いているだろうから、それに都合よく動ければいいな。
俺は壁に向かって話す。
「ミノラ。定期的に俺の行動はガブリエラに報告するように指示は受けてるよな?」
沈黙。こちらからの要望は聞かない、というスタンスか。だが、俺たちは仲間だぜ。
なので俺は一方的に続ける。
「俺は毎朝、壁に向かってその日の予定を話す。ガブリエラにはそれも伝えてくれ。俺の動きも加味して、うまく動いてくれることを祈る」
「……期待はしないでくださいね~っ」
ほどほどにうまくやってくれるらしい。ま、今はそれで十分だろう。俺は俺の推しを信じる。
ということで、俺はみんなと共に席に着き、パーラの食事に舌鼓を打ちながら、「みんな」と呼びかける。
「一つ、ゲームをしようか」
「……ゲーム……?」
こんな状況でも食いつくのが、好奇心旺盛なリリだ。ほとんど忘我しながらも、刺激的な話には絶対に食いつく。
「ああ、そうだ。推理ゲームだな。じゃあ問題だ。協力して考えてくれ」
俺はみんなの顔を確認する。みんなは俺の話に気を取られて、落ち込んだ気持ちを少しだけ忘れられている。
「君は多数のまぁまぁ強力な怪物を多数指揮できる怪物少女だ。君は敵である都市に攻撃を仕掛け、勝利を収めたい。最初の攻撃は同時多発テロだ。君はどう成功させる?」
『……』
みんなが目をパチパチと開閉しながら、何のことか察し始める。ハルはムッとしながら「はい」と挙手した。
「はいハル」
「普通に仕掛けたんじゃないですか? これ、今回の事件ですよね。それを推理ゲームだなんて「はい不正解~!」はい?」
俺が指さし言うと、ハルが明らかにムカついた顔になる。可愛い。
「普通に仕掛ける、ってことは、怪物に往来を歩かせたってことだよな。そうした場合はミノラが見つけてガブリエラが狩りにくる。だからその作戦は失敗だ」
「……!」
ハルの目が大きく開き、気づきが宿る。思考がゲームにのめりこむ。相手の思考に立つ、という推理の基礎が、脳にインストールされる。
「じゃあ、次は私が」
ダニカが俺の意図を察して、盛り上げるように話し始める。
「怪物を見られないように、隠しながら移動させた、とかどうですか?」
「いいね。じゃあさらに踏み込んだ質問だ。どうやって隠しながら移動させた?」
「こう、箱に詰め込んだりして、荷物を装って」
「つまり、箱か何かに入れていろんな場所に輸送したってことか? あのデカい怪物を何十体、何百体も」
「……なるほど、この方法では無理ですね。隠しても目立ちすぎますし、それを運ぶ人も確保が難しい」
ダニカは自分の考えを自分で棄却する。だが、その口端にはわずかに笑みが引っかかっている。そうだ。これはゲームだ。だから、楽しくていいのだ。
「さぁ楽しくなってきたな。この推理ゲームは難しいぞ? みんなで協力して考えるんだ。ほら、そっちの二人はどう思う?」
俺が問うと、「じゃ、じゃあ……」とパーラが手をあげる。
「あ、あの、ルルイエって実は、地下通路があるん、です。ルルイエ正教の偉い人たちが、何かあったときの非常通路として……っ」
「パーラッ! それはかなりの重要秘匿事項ですよ!」
「ひぅっ、ごめんなさ」
叱るハルを、ダニカが諫める。
「ハル、こんな事態ですよ。この話はする必要があると思います。パーラ、続けてください」
「う……はい。ごめんなさい、お姉さま、パーラ」
「え、ぅ、はい。えと、それで、その、その非常通路を使えば、色んなところに、怪物を移動させられるんじゃ……って」
「その案はいいな。でも、その情報は今言った通り秘匿事項なんだろ? じゃあさ」
俺はニヤリ笑って問いかける。
「どこでそんな情報知ったんだ?」
『――――――ッ』
その一言で、全員が息を呑んだ。それは、たった一つの真実に繋がる問いだからだ。
「それ、じゃあ」
リリが、目を見開いて俺に言う。
「その情報が得られる場所に、潜り込む、とか。もしくは……敵に、スパイを送り込む、とか」
「……推理ゲームは、一つの大きなポイントにたどり着いたな」
俺は立ち上がる。
「さぁみんな、行くべきところは分かったな? 行動開始だ」
「はい。行きましょう、教授」
ダニカはキリリと真剣な目をして、こう言った。
「ルルイエのすべての情報が集まる場所―――
物語が、動き出す。
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