第68話 拘留室にて
ガブリエラに事件のあらましをザックリ伝え終えたころ、俺は釈放される運びとなった。
「こちらに全員揃ってますよ」
「全員? リリだけじゃ?」
「いいえ、全員です」
ニィ、と意地悪い笑みを浮かべるガブリエラ。ギザ歯がむき出しになって、とってもワイルドだ。顔がいいなぁと思いながら、俺は前を進むガブリエラについていく。
ガブリエラ、俺、ロチータの順番に、廊下を歩いていた。向かう先は拘留所だ。リリは俺より先に尋問を切り上げ、そちらに移送したという。
いざそこにたどり着くと、何故かリリだけではなく、インスマウス教会の面々がそろって拘束されて、悔しげに歯噛みしていた。かと思えば、俺を見つけて「教授!」と声をあげる。
「や、みんな。元気?」
「ロチータ、全員拘束を解いて出せ」
「は、はいぃ……」
目を常にグルグルさせて、ロチータは鍵を開けて一人ずつ拘束を外していく。すると、感極まって立ち上がり、俺に抱き着いて泣き出してしまうのが一人。
「教授ぅぅうう~~~! しん、心配してたんですからねぇええ~~~!」
「あ、アレ? ハル? ハルがそれするんですか? 私の役得じゃないですかそれ? ハル?」
意外にもハルが俺に抱き着いて、わんわん泣き始めてしまう。一瞬遅れて手を広げて立ち上がりかけていたダニカは、戸惑いながらハルの腕をとって俺から剥がそうとしている。
「二人とも、心配かけたね。よしよし。パーラとリリは大丈夫だった?」
「あ……えと、リリが、少し怖がってて……」
パーラは、リリを抱きしめて背中をさすっていた。リリはどこか目を虚ろにして、何か見えないものを見つめ震えている。
「ガブリエラ。一応聞くけど、リリに乱暴な真似は」
「オトに担当させましたが、あいつはそういうことはしません」
「分かった。そういうなら信じるよ」
オトの性格はゲームで知っている。モブ怪物が尋問したならともかく、オトなら心配するまでもないだろう。
となると、リリ自身の問題か。俺はまだ解決できないと目を伏せる。
「っていうか、何でみんなここで捕まってんの?」
「ああ、教授。教授はあっさり捕まってアタシと一緒に来ましたが、あの後あいつら、結構暴れたんですよ。それでまとめて拘留しました」
「ダニカ?」
「う、……だ、だって異端審問室ですよ? 基本的に捕まったら終わりの、ルルイエの秩序と信仰の番人です。それに教授とリリが捕まるくらいなら、抵抗の一つや二つ」
ダニカは拗ねた子供みたいに口をとがらせて、ぼそぼそと言っている。俺はその様子に癒されつつ「まぁ、この通り無事だったから」とダニカを安心させる。
すると、ハルが眉根を寄せた。
「そこですよ! 結局どうなったんです? どういう話になったんですか?」
「その説明は、俺がするよりガブリエラがするのがいいかな」
「そうですね。では、アタシから」
俺がダニカたち側に回って聞く姿勢になると、みんながガブリエラに目をやった。ガブリエラは一つ咳払いして、口を開く。
「今回の同時多発テロの容疑者、およびインスマウス教会の諸君。本来なら疑わしきは罰す我々異端審問室だが、教授の証言があまりに核心に迫るものと判ぜられたため、今回は特例措置をとる」
「特例措置、ですか?」
「そうだ。諸君らには、行動でもって身の潔白を証明してもらう。すなわち―――真犯人の拿捕。それを諸君らにやってもらう、というわけだ」
その話を受けて、みんなの顔に困惑がにじむ。ガブリエラは気にせず続けた。
「諸君らは教授の指揮下にて、真犯人拿捕について動いてもらう。この件は教授がかなり情報を掴んでいるようだからな。しかし、それで教授が真犯人ならルルイエは終わりだ」
だから、とガブリエラは続けた。
「ミノラ」
「はいは~いっ。ども~っ容疑者のみなさん。『異端審問室の目』、ミノラで~すっ」
言いながら壁から現れたのは、異端審問室の怪物少女四人の、最後の一人だった。
暗い水色のショートヘア、くすんだ紫のとろんとした目。黒地に赤い模様のゆったりとしたローブを着て、ふんわりとした軍帽のようなものを被っている。
特徴的なのは口元から除く八重歯と垂れる涎だ。「じゅるり」と時折すすりながら、まるで獲物を狙う吸血動物のような目で俺たちを見つめている。
特徴的なのはそのふっっっっとい太ももだ。太ももが輝かしいと言えば我らが犬なのか猫なのか分からないガールことジーニャだが、太さではミノラには敵わない。
さしずめミノラは、栄養全部太もも娘というところだろうか。いっつもお腹ペコペコだしな。胸や身長に行かなかった栄養がすべて太ももに行っている。性癖。
そんな彼女が、壁をすり抜けて現れたものだから、みんなでぎょっとしていた。ミノラは「アハハ~っ」と屈託なく笑っている。
そんなミノラの肩を軽く叩きながら、ガブリエラは言った。
「こいつがお前たちの監視者として、常時見張ることとなった。この通り壁を移動して相手を監視して回ることができる奴でな。悪さは到底できないと思ってくれ」
「って感じで~すっ」
ミノラが元気に返事する。これで今回登場する異端審問室の怪物少女の情報は出そろったってところか。
異端審問室。ルルイエにおける治安維持組織。平たく言うと警察だ。その中でも怪物少女は頂点に位置する構成員になる。
まず、トップに君臨する室長兼第一枢機卿、ガブリエラ。戦闘狂に見える苦労人。あるいは日々のストレスを戦闘で発散する健気な子。獰猛そうに見えるだけの常識人だ。
次に聖騎士オト。ガブリエラの右腕にして、突撃隊長。異端審問室の副隊長という感じだ。向上心が強いので、その座を奪おうとちょくちょくガブリエラに突っかかっている。
三番目に、心を読んだり操ったりできるロチータ。ガブリエラの側近。常にネガティブで目がグルグルしているが、割といい性格をしている。尋問系はお任せあれって感じ。
最後に、今紹介されたミノラ。異端審問室の目、というだけあって、ルルイエの異常はまずミノラが察知する。いつも飄々としてやる気なさそうなタイプの有能だ。
他にも怪物少女が少し居て、その下に無数の怪物たちがひしめいている、というのが異端審問室の構成だった。
俺が初心者教授だった時は、異端審問室の四人の怪物少女、というまとめ方でざっくり覚えていたものだ。今回特に重要なのはガブリエラくらいだろうしな。
「ではまとめるが」とガブリエラは言った。
「諸君らには、教授の指揮下、およびこのミノラの監視下で動いてもらい、此度の事件の対処に当たってもらう。見事真犯人を拿捕、あるいは確信的な証拠を獲得したなら、それでもって潔白の証明とする」
「で、できなければ、どうなるんですか」
ハルが問い、つばを飲み下す。ガブリエラはギザ歯をギラギラと見せつけるように笑って言った。
「できなければ連帯責任で全員処刑だ。心して掛かるように」
『―――ッ』
みんなが戦慄する。俺はゲームのあのシーンの再現だぁ~! とテンションが上がっている。
「ま、待ってください! 教授まで処刑すれば、外交問題ですよ!?」
「残念ながら司祭ダニカ、これは教授自身が飲んだ条件だ。今更お前が何を言おうと覆らん」
「教授!?」
「うん。俺はこれで飲んだ。詰まる話真犯人を見つけて連れて来ればいいだけの話だからね。処刑だの何だのっていうのは、脅し文句でしかない」
ね、と俺がガブリエラにウィンクすると、ガブリエラはすっと視線を外した。ガブリエラめ、俺のテンションに巻き込まれると負けると踏んだな? いいだろう見逃してやる。
「では、アタシもすべきことが山積みなんでね。ここらで失礼させてもらいますよ、教授。そして容疑者御一行。ほら、ロチータもご挨拶しろ」
「あっ、あわわわ、で、ではご武運を、みなさん!」
「お前の挨拶それでいいのか?」
ロチータの素っ頓狂な挨拶に一言入れつつ、ガブリエラは踵を返した。俺たちは顔を見合わせ、それからミノラを見る。
「とりあえず、出口まで案内しますね~っ」
ニコニコ笑顔を崩さず、ミノラは歩き出す。
―――――――――――――――――――――――
New!
名前:ミノラ
所属:海上都市ルルイエ/ルルイエ正教・異端審問室
あだ名:栄養全部太もも娘
二つ名:異端審問室の目
外見: 暗い水色のショートヘア、くすんだ紫の半閉じ目。黒地に赤い模様のゆったりとしたローブを着て、ふんわりとした軍帽のようなものを被っている。八重歯がチャームポイント。いつも血が吸えそうな相手を見ては涎があふれている。
特殊能力:『監視は気付かぬところにて~っ』:壁や床に潜って接近直接噛みついてダメージを与えつつ、ダメージ分のHP、味方を回復する。
通常能力:『逃げないでください~っ』:麻痺毒を放出し攻撃頻度を減少させつつダメージを与える。
攻撃属性:闇
防御属性:混沌
イメージ画像
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