第59話 真っ白少女の正体は?

 暴れて逃げ出さないようにいくらか拘束した辺りで、真っ白少女は再び目を覚ました。


「りっ、りりりりり!?」


 叫んで逃げ出そうとした直後、足に連れられた枷に突っかかって、真っ白少女は地面に潰れる。「りゅ~……」と力尽きたような声を漏らしている。


「……ええと、大丈夫ですか? 私たちの言葉は分かりますか?」


 ダニカの声掛けに「りー!」と威嚇を返す真っ白少女。それにダニカは渋い顔だ。


「うーん……言葉が分からないんでしょうか? 困りましたね……」


「怪物少女で会話ができないのって初めて見ました。お姉さま、どういう状態だったんでしょうか」


 ハルがキョトンと首をかしげている。やはりこういう、特殊な状況の怪物少女は珍しいのだろう。


 一方、ダニカ、ハルがそろって悩んでいる中で、唯一純粋な興味の目を向ける者がいた。


「……」


 じっ……とパーラが一人、名無しの真っ白少女に目を向けている。ベッドに逃げ帰って、毛布に隠れて唸る真っ白少女は、「て、てけ……」と困惑気味にパーラを見返している。


 パーラは言った。


「言葉がしゃべれないってことは、赤ちゃんってことですか……?」


「ぱ、パーラ?」


「パーラ、今はふざける場面じゃないですよ」


 ダニカは困惑し、ハルは注意を飛ばす。だがパーラはキラキラした目を真っ白少女に向けたまま、ずいっ、と前に踏み込んだ。


 真っ白少女は自分と同じくらいの背丈のパーラに怯んで「り、りり……」と首を引っ込めている。そんな彼女に、パーラは近くに持ってきていたスープを取って、スプーンで一口救って口元に差し出した。


「あ、あーん……です……」


「……り……」


 真っ白少女は逡巡した。匂いを嗅ぐように鼻を鳴らし、スープを見、パーラを見、またスープを見、もう一度だけ鼻を鳴らし。


 一拍おいて、真っ白少女はスープを口にした。


「っ! り~~~!」


 するとよほど美味しかったのだろう。真っ白少女は満面の笑みを浮かべた。それにパーラも、ぱぁあっ! 表情を晴れさせる。


「もっと食べますか……っ?」


「り! りりっ、りー!」


「はい、どうぞ。食べさせてあげますね……っ」


 真っ白少女は大人しく、パーラの差し出すスープにパクついている。パーラはにこやかな笑みを浮かべて、一口一口丁寧に真っ白少女に食べさせていく。


 それに俺は思う。何だこの幸せ空間は……尊い……守らねば……。


「お姉さま……っ」


 真っ白少女にご飯を食べさせながら、パーラが言う。


「ぱ、パーラっ、この子を妹にします……っ」


「い、妹、ですか?」


 困惑するダニカに、パーラは強く頷く。


「はい……っ。パーラが、この子を育てます。ちゃんとお世話します。だから」


 それに、とっさに反対するのはハルだ。


「い、いえいえ! そんなっ、妹って! 身元も分からないような子ですよ? それに喋れない怪物少女だなんて、トラブルのもとです!」


 まぁ冷静に考えればそう。と俺はすっと目を細める。


 しかしパーラは、今までの引っ込み思案が引っ込んでしまうほどの情熱で熱弁した。


「お願いします……っ! お姉さまたちが困らないように、パーラが全部お世話しますっ。教会のお仕事もちゃんとやりますっ。だから……!」


「……う、お、お姉さまぁ……」


 ハルがパーラの熱量に押され、ダニカに判断をゆだねた。ダニカは一瞬こちらを見る。俺は微笑んで、肩を竦めた。


 ため息とともに、ダニカは言う。


「はぁ、分かりました。まるでペットみたいなやり取りですが、怪物少女ですからね。放置という訳にもいきませんし。妹というなら、ちゃんと責任をもって世話をするんですよ?」


「―――――っ! やったぁ……っ!」


 パーラは喜びのあまり、ぎゅっと真っ白少女を抱きしめた。真っ白少女の方もパーラにすっかり気を許したと見えて、抱きしめられるのに目を丸くしながらも抵抗しないままだ。


 そこで俺は、一つ口を挟む。


「じゃあ、ここにいる間、俺も少し協力しようかな。多分この子は地頭が悪くなさそうだし、会話できるようにしてあげないと」


「あ、ありがとうございます、教授……っ!」


「教授が手伝ってくださるなら心強いです。……すいません、本当ならルルイエを一通り観光して、ゆっくりしていただくくらいの気持ちでお呼びしましたのに……」


「気にしないで、ダニカ。俺も楽しんでるから」


 申し訳なさそうにするダニカに、俺は微笑み返す。ルルイエ観光もちょっとしたいとは思っていたが、真っ白少女のことはメイン目的ど真ん中だ。


「……いくら何でも、ワタシたちに都合よすぎませんか、教授……。何か裏があるんじゃ……」


 ハルは一人で疑心暗鬼の目で俺を見ている。ゲームの教授には勘繰りもいいところなんだけど、俺の場合はその通りだから何も言えない。


 俺は真っ白少女に近づいて「や」と声をかける。食事をくれる面々、というくくりで捉えられたのか、真っ白少女は俺を警戒するそぶりはない。


「り?」


「こんにちは。体は平気? 今日からたくさん話しかけて、君が話せるようになるのをお手伝いするから、よろしく」


「り!」


 何だかよく分からないが、こちらが親しみを真っ白少女に向けていることは分かったらしい。元気にお返事だ。可愛いね。とっても無垢な感じ。


「とりあえずは……君の名前を決めないとね」


 俺が言うと、教会三姉妹はハッとする。俺は横を向いて、パーラに問いかけた。


「何がいいかな、パーラ」


「あ、う、えっと、えっと……っ」


 パーラはしばらく戸惑ってから「りー?」と首をかしげる真っ白少女を見て、こう言った。


「リリ……リリは、どうでしょうか……っ」


「うん、いい名前だと思う」


 俺が二人に振り返ると、ダニカ、ハルの二人も「そうですね。分かりやすくていい名前です」「まぁ……いいんじゃない、ですか?」と。


 そんな訳で、この真っ白少女は、『リリ』という名前で、インスマウス教会にて受け入れられる運びとなった。


 ……さぁて、これからしばらく育成シーンのそれこれか。大変だぞぉ~俺~。











―――――――――――――――――――――――


New!


名前:リリ

あだ名:真っ白少女

外見: 黒のマフラーにカバンを持った制服姿の少女。虹(玉虫色)の目に、地面につくほどの白の髪を持つ。ロリ巨乳。垂れ目だが、好奇心旺盛で何事にも興味を示す。

特殊能力:???

通常能力:???

攻撃属性:?

防御属性:?


イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/Ichimori_nyaru666/news/16817330659730456074

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