第50話 森の子ネズミ、ズーカ

「まず、変態っていうのは誤解だ。みんなふざけて、君の警戒を解こうとしたんだ」


「嘘つけ、ペット人間。お前以外全員本気だったぞ」


「……ぺ、ペットっていうのも、違う。俺とみんなは対等だ」


「逆にお前が飼い主っていうなら信じる」


「……」


「……」


 沈黙が俺とネズミ耳ボウガン娘の間に走る。俺は返す言葉がなくて、深呼吸してから、両頬をバチンと叩いた。


「こんにちは! 初めましてだな」


「……それで誤魔化されると思うのか?」


「お願いだから話を前に進めさせて」


「泣きそうな顔するなよ……」


 ネズミ耳ボウガン娘はバツの悪そうな顔をして、それから改めて俺を睨みつけてきた。


「ぢゅー……。つまり、お前はあいつらの仲間ってことか?」


「それはそうだな」


「じゃあ、ぼくの油断を誘って、近寄らせたわけだ」


 ネズミ耳ボウガン娘の表情が、さらに険しくなる。


「……結局お前、何が狙いだ」


 姿を現したものの、まだ警戒を解いたわけではないらしいネズミ耳ボウガン娘。俺は笑顔で答える。


「君の保護」


「……嘘つけ。変態行為につき合わせる気だ」


「せんわ!」


 思わず強めに突っ込んでしまう。ネズミ耳ボウガン娘がビクリと震えたので、俺は咳払いをして問い返した。


「変態云々は置いといて、君に俺の言うことを聞かせるようなことはしない」


「嘘だ。する気だろ」


「君の方が強いのに、どうやって?」


「ちゅ、う……。で、でも、何か裏がある。絶対そうだ」


 再びぢゅー……と唸り始めるネズミ耳ボウガン娘。俺は肩を竦めて、話題を変える。


「君の名前は? 俺は教授って呼んでくれればいいよ」


「きょーじゅ? きょーじゅ……。……ぼくは、ズーカ」


「よろしく、ズーカ」


 俺は笑みを大きくする。ということで、俺の推しことズーカである。


 今まで出会ってきた怪物少女の中でも群を抜いて小柄で、多分120cmくらいしかないのではないだろうか。茶髪にネズミ耳。ネズミらしい先細りするしっぽが、ひょろりと動く。


 ズーカは「きょーじゅ、きょーじゅ……」と呟きながら、ちょこちょことこちらに近づいてくる。いざとなれば一瞬で離れられる程度の距離感を保ちつつ、座る俺に目を合わせる。


「ズーカは、何でここに? ここ、結構危険だけど」


 俺が問うと、ズーカは少し悩んでから答えた。


「眷属たちと住んでた森が、主失いに襲われて、燃えた。逃げ回ってたら、ここについた」


「それは、大変だったな……」


 というか、主失いが出た原因、ズーカの住みかと繋がってたからか。ズーカと主失いのどちらもここに流れ着いた、という感じらしい。


「主失いは、どうしてズーカを?」


「ちゅう、知らない……。主失いは死なないから、自然にぼくのとこに流れ着いたんだと思う」


 ズーカは、難しい顔で続ける。


「人間の大人くらいのが、たくさん。あと、ものすごくおっきいのが、一体。普通のはぼくたち早いから逃げられたけど、ものすごく大きいのが、眷属たちをいっぱい殺した……」


 人間大の連中は、遭遇していくらか倒している。だが、巨大な一体がいるのか。俺はその事を心にとめつつ、神妙な顔で頷く。


「そうか……災難だったな」


「……ちゅー……」


 頷きつつ、ズーカは俺を見つめている。俺は刺激しないように、ズーカの言葉を待つ。


 するとズーカは、表情から険を抜いて、あどけない顔で俺に問いかけてきた。


「……きょーじゅ、本当にぼくに何もしない。何で?」


「何でも何も、襲っても負けるし。それだとしても襲う理由なんかないけどね」


「本当に? でも、人間ならズーカよりも弱い……? ちゅー……」


 吟味するように、ズーカは俺を見つめている。そろそろ本題に入れるか。


「きょーじゅについてったら、どうなる?」


 来た。俺は笑顔で答える。


「保護する。まぁ、そうだな。とりあえず衣食住は整える。ズーカが守られる環境を用意する。ここまでは確定だ」


「……安心して寝られる?」


「約束する。それは、絶対だ」


 安心して寝られない夜を推しに過ごさせてたまるか。俺の頷きに、ズーカの目に期待が灯り始める。


「じゃあ、えっと、さ、寂しくない? 一人で寝なくていい?」


「ああ。それも約束する。もう一人寂しい夜はおしまいだ」


 俺の返答に、さらに目を輝かせるズーカ。俺は見ていられない気持ちになる。ズーカ……幸せにするからな……。


「ちゅ、ちゅー……! じゃ、じゃあ、ズーカ、きょーじゅに、ついて」


「あー! 見つけたぞ! あ! そこにいるのって探してた女の子か!?」


「ぢゅー!」


 ズーカは飛び上がり、すごい速度で俺の背後に隠れた。うっわ今瞬間移動した? 一瞬で目の前から消えたと思ったら、次の瞬間には俺の肩を掴んでいた。こりゃ捕まらない訳だ。


「大丈夫、俺の仲間だよ」


「ぢゅ、ぢゅー……!」


「あらあら……、少し目を離した隙に、教授ったら」


 言いながら近づいてくるイブに、俺は警戒の構え。


「イブ、冷静になったんだな?」


「……この度はお恥ずかしい姿を、失礼しました、教授。その、……ちょっと、可愛すぎて」


 イブは言って、ぽっと頬を赤らめる。対照的に他三人はげっそりしていた。お疲れ様です。


 そんな空気を仕切り直すように、ナゴミが前に出てくる。


「よかった、教授もその子も、みんな無事だったんだね。盗んだものは早く返してほしいけど、とりあえず何事もなくて何よりだよ」


 近寄ってくるイブ、ナゴミに警戒心を高めるズーカだが、二人が概ね笑顔であるからか逃げるまでは行かなかった。俺という盾もいるしな。


「とりあえず、ほら、盗んだもの出して。あたしたちには大事なものだから」


「ぢゅっ、……きょーじゅ……」


「それは返してあげてくれるか? 大丈夫、人質ならぬ物質ものじちなんか取らなくても、乱暴なことはされないから」


「……ちゅう」


 カバンを漁って、ズーカがナゴミに小さな機械を返す。何だろあの機械……。でかい吸盤みたいなのが二つある。


「でも、よかったねー。教授がいなくなったときは何事かと思ったけど。もー、ダメなんだからね! 心配したんだから!」


「ごめんごめん」


 遅れてやってきたウルルの注意に、俺は謝っておく。


 するとその時、俺の背後、ズーカが俺に捕まる手が、ブルブルと震える感触に気付く。


「……ズーカ?」


 俺が振り返ると、ズーカは顔を青くしてウルルを見つめている。ウルルは「ん? その子?」と首を傾げる。


 それから、言った。


「ネズミっぽい耳してる……じゅるり」


「ねっ、猫だ―――――――――――――――!」


 ここまでで上げそうもないような絶叫をあげて、「ぢゅー!」とズーカは脱兎のごとくこの場を離脱した。それにウルルはポカンとして、何度かのまばたきの後に、俺を見た。


「きょ、教授……もしかして、ウルル、やらかした?」


「これはギルティ」


「うぇえええ、ごめんなさーい!」


 口を押えて、ウルルは言う。いや、そうか、なるほど。ちょっと想定外だった。そうかそうだな。ネズミは猫見たら逃げるよなそりゃ。


 これは仕切り直しか……? と渋い顔で俺が唸ると、直後また離れた場所で「ぢゅー!?」とズーカの悲鳴が上がる。これは―――


「みんな! 急ぐぞ! 多分ズーカは、また主失いと遭遇した! しかも、今までとは比べ物にならないような奴がいるかもしれない! そいつが、ズーカをこの森に追いやった!」


 俺の号令に、みんながハッとする。俺は我先にと、悲鳴のあった方に駆けだした。










―――――――――――――――――――――――


New!


名前:ズーカ

所属:???

あだ名:ネズミ耳ボウガン娘

外見:身長120cm台の茶髪にネズミっぽい大きな耳が付いている少女。エプロンの付いた店員服を着て、ひょろりとしたネズミの尻尾を揺らす。腰にはボウガンを付けている。

特殊能力:魔法のキノコ:幻覚効果を起こすキノコを投げつけ、胞子を炸裂させる。範囲の敵にダメージを与え、幻覚の状態異常を起こす

通常能力:『ボウガンだぞ! ちゅー!』:一定時間ごとにボウガンで射撃を行い、敵にダメージを与える。ボウガンが当たるごとにコスト回復力が上がる。

攻撃属性:混沌

防御属性:闇(☆3以上で解放。解放前は『物理』)


イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/Ichimori_nyaru666/news/16817330659563761681

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る