第42話 ガチャは悪い魔術

 では、ここから先の俺の反応を、ダイジェストでお届けします。


 まず二十連目。


「まぁまだ二十連だからね。こんなもんこんなもん」


 三十連目。


「まぁー……まだまだ。ここからここから」


 四十連目。


「んー……そろそろ出てほしいなぁ~。期待値的には、そろそろ……」


 五十連目。


「……いや、そろそろ連続で来るから」


 六十連目。


「えっと? クロ? イブは天井でも仕方ないにしろ、そろそろ☆3見つけてもらえる?」


「時の運だよこういうのは」


 七十連目。


「クロ?」


「だから運だってば! ボクに言われても困るよ!」


 八十連目。


「クロ!?」


「ボクに当たるのは止めてもらえるかな!? 止めたっていいんだぞボクは!」


 九十連目。


「……いや、きゅ、九十連だぞ……? そんな、ここまで当たらないなんてことは……」


「別に、場所が見つかってるだけなんだから、重要度が低い怪物少女は後回しにすれば、ジュエルは温存できるだろう?」


「そんな残酷なことできるか! 助けられる怪物少女を死にっぱなしで放置なんて、そんな残酷なこと!」


「まぁ確かに君、ひとしきり捜索の魔術回したら、進行中の仕事がひと段落し次第ずっと救出作業してるけど……」


「怪物少女は! 当てた順番に! 助けるんだよ!」


「すでに何度か同じ怪物少女を助けてるのに、めげないねぇ……」


 百連目。


「な、何故? 何で!? うそだ……うそだそんなこと」


 百十連目。


「え? お、おかしくね? 排出確率どうなってんの? ……いや、ゲーム通りだよな、うん……」


 百二十連目。


「は?」


「血走った目でボクのこと見るの止めてもらえる?」


 百三十連目。


「……えぇ? いや、えぇ……?」


 百四十連目。


「……あ、あと六十連あるから。期待値的には、三十連に一人出るから、ここから六人☆3当たるから」


 百五十連目。


「ここから! ここからクロの捜索の魔術が火を噴くんだもんな! いやぁ楽しみだなぁ! 十連で二人三人と☆3がいる光景!」


「……わ、笑いながら泣いてる……」


 百六十連目。


「いや、いやいやいやいや、こんな、こんなグロいガチャ結果、いや、いやいやいやいや……」


「マスター……」


 百七十連目。


「夢?」


「ど、ドリームランドだから、夢ではあるね……」


 百八十連目。


「わ……ぁ……」


「な、泣いちゃった……」


 百九十連目。


「……次、さ」


「う、うん」


「☆3が、五人くらい、出る、よな。それでも。期待値以下、だけど」


「……」


 二百連目。


「ああぁぁぁぁあぁぁぁぁああああああぁぁぁああああぁぁぁ!」


「マスター! 自棄にならないで! その手に持ったタオルで何をどうしようっていうのさ! マスター!」


 俺は号泣しながら暴れ狂っていた。こんな! こんなグロいことあるかよ! こんなひどいことあるかよ!


「クロの人でなし! ひどい! ひどいよ!」


「ぼっ、ボクは何もしてないって! これはランダムに怪物少女を見つけるだけの魔術なんだよ! ボクは本当に何もしてない!」


 慌てて否定するクロに、俺はその場に崩れ落ちる。歯を食いしばり、ちょちょぎれる涙を垂れ流しながら、俺は言葉を絞り出す。


「う、ふぐ、ぅ、わ、分かってる……! でも……でも……!」


「そ、そんなに結果が気に入らないなら、さっきも言ったけど」


「それはダメだ! それだけはダメなんだ! 俺は! 俺は教授として! 見つけ出した怪物少女はみんな救わなきゃいけないんだ! たとえ! それが! こんな結果でも!」


「……君は、教授の鑑だよ。人としては何か欠けてるけど」


 地面に手をついて、おいおいと泣く俺の背中を、そっとクロがさすってくれる。優しい……。そうだよな、こんな優しいクロが、ガチャの結果をこんな風にするわけないもんな。


「じゃあ、最後に目的の相手を見つけるとしようか」


「うん……ひぐっ、うぅ……」


「そんな泣かないで……。コーヒー淹れてあげるから」


「ありがと……」


 俺はクロに慰められながら椅子に座り、ゲーム画面上でたまった捜索ポイントをイブと交換する。ゲーム画面では派手なエフェクトが発生して、イブが仲間になったと出る。


 だが現実は切ないものだ。心をズタボロにされた俺は、クロに背中をさすられながら、涙目でコーヒーをすする。


「おいしい……」


「それは良かった。結構いい豆だよ、そのコーヒー」


「クロありがと……愛してる……」


「……落ち込んでも、君の軽口は止まないみたいだね」


 わずかに顔を赤らめ、むっとしながら、クロは目をそらす。


「ともかく、ここまで情報がそろえば、ボクも狙いの彼女を探し出せる。これでもボクは機械の神性だ。簡単な計算だよ。つまりは―――」


 クロが、地図に複雑な図を書き入れていく。


 地図に書き込まれた怪物少女の発見情報をもとに、ガリガリとクロは図形を描いていった。見る見るうちに複雑な図形ができていき、最後には魔法陣のようになる。


「ここだ」


 クロは、森の喫茶店クレドの中の森の、ある一点を導き出した。


「ここに、彼女はいる。さぁ、それが分かったんだ。さっさと元気を出して、みんなと助け出しておいで」


「うん……ああ、そうする」


 俺は顔をぬぐって、立ち上がった。気持ちの入れ替えはもう済んだ。


 クロが指を鳴らすと、銀の鍵が空中に浮かび、ガチャとこの場が一変する。扉が開くように空間が入れ替わり、俺はクレドのテラスの真ん中に立っていた。


「あ! オヤブン! どこ行ってたんだー!?」


「心配したんだからね! 先走って、一人で行っちゃったんじゃないかって!」


「あんまり、心配させないで」


 三人が寄ってきて、俺に集まってくる。俺は「ごめんごめん、ちょっと調べ物をね」といいながら、三人を宥める。


 それから、一呼吸。情けないところを見せるのは、クロだけだ。俺はみんなに目を合わせ、宣言した。


「もう調べは済んだ。店長さんを助けに行こう」


 俺の言葉に、みんなが色めき立つ。

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