第27話 六人部隊、完成
マフィアのザコどもは、警戒と共に銃を懐から取り出した。
例の、怪物少女でも殺せる銃だろう。だが今まで繰り返した市街戦で、弱っている時の五発でもない限りは死に直結しないと分かっている。
もちろん俺が食らったら重症だし即死しかねないが、そんな懸念は犬にでも食わせておけばいい。俺も戦場の空気にはすっかり慣れてしまったのだ。
「前進開始だ」
指揮下の怪物少女たちが、各々陣形を取る。最前線に躍り出る犬猫娘のジーニャ、数歩控えて単体アタッカーのレイ、もう一歩控えて範囲アタッカーのダニカ、ハミング。
回復役のパーラは俺の傍に控え、俺を直接狙う奴が出た場合の非常用戦力も担っている。ミミは場所が分からないが、恐らくいい場所で全体を見渡してくれているのだろう。
やっと六人がそろったな、と思う。それに、強化も。
もはや奴らでは相手にならないところまで、育成は完了している。今回の戦闘は、そのお披露目会のようなものだ。
「みんな、好きに遊んでおいで」
俺はゲーム画面の『オートモード』ボタンをタップして、静観の構えを取った。実は初めての操作なので、皆が少し動揺する。
「あ、あの、教授?」
「大丈夫。連中相手なら、好きに遊んでいい。君たちにとっては、もはや奴らはおもちゃみたいなものだよ。安心して、危なくなったら俺がちゃんと指揮を執るから」
緊張気味に聞いてきたダニカに、俺は答える。ダニカは俺の言葉に、「わ―――分かりました。今までの成果をお見せします」と頷き、前を見る。
声を上げたのは、マフィアの一人だ。
「何だか知らねぇが、バカにしてんじゃねぇぞオラァァアアアアア!」
言いながら、でたらめに弾丸をばらまいている。俺は「おーこわ」と言いながら、パーラと共に物陰に隠れた。他の皆も多分良い具合に隠れていることだろう。
すると、パーラが俺に尋ねてくる。
「あ、あのあの、教授……? ぱ、パーラは、いつ動けば良いでしょうか……?」
「好きに動いていいよ。動かなきゃ、って思ったら、足は動く。そういうものだよ」
「は、はい……! わ、分かりました」
気弱メイドシスターなパーラは、不安そうながら頷いた。
オートモード。ゲーム内では余裕な面で操作が面倒な時にやるだけの機能で、教授としてプレイヤーが操作した場合の精度には決して届かない荒いプレイだったりする。
だが、一度それをすることで分かることもある、という考えだった。次第に掌握済みの地域の掃討なんかは俺の手から離れて行くだろうし、皆自身の動きを見ておきたかったのだ。
さて、そんな思惑と共に始まったオートモードだが、先陣を切ったのはジーニャだった。
「いっくぞぉー! ニャッハハハハ!」
ゲーム画面でコストが消費され、ジーニャの攻撃力、回避力が上昇する。その勢いでジーニャは敵に襲い掛かった。
マフィアが銃撃でそれを撃退しようとするが、ジーニャの回避の方がいくらか速い。僅かに肌に弾丸がかすめることはあっても、ジーニャの肌はその程度では傷つかない。
肉薄。ジーニャが銃撃の間を縫って、敵に飛び掛かる。
「ぎゃあっ!」
「ニャハハハハハ! オヤブン! こいつ殺していい奴だっけ!」
「良いぞ! 今回は報復戦だ! 全員殺せ!」
「ニャハハハハハ! じゃあね! バイバイ!」
一撃でマフィアの首が、ジーニャによって引きちぎられる。想起するは人狼。マフィアの首から噴き出した血煙が、ボタボタと石畳の地面を濡らす。
「くっ、怯むな! 怯むなぁー!」
敵は銃撃でジーニャを狙うが、ジーニャは素早く避けるので当たらない。そうやって問答をしている内に、次のスキルが溜まる。
「では、前進に邪魔なこの人間たちは、わたくしが一掃すると致しましょう」
ハミングがマイクを口元に運ぶ。そして、高らかに叫んだ。
『黄色の歌』が、炸裂する。
それを聞くなり、マフィアたちは耳を押さえて悶え始めた。数秒と経たないうちに、肌が泡立ち、破裂する。全身をそうやって血まみれにして、一人また一人と倒れていく。
結果、たった一秒と少しの時間で、ハミングは目の前の敵を一掃してのけた。
「ご静聴、ありがとうございましたわ」
まったく恐ろしい怪物少女だ、と俺は戦慄と共に微笑む。歌姫を名乗るだけあって、歌った直後の一礼には貫禄さえあった。
「前進しよう」
俺たちは目の前の敵を一掃し、部隊を前に進める。すると俺を追って廃墟を上っていた連中が、すでに陣形を構えて俺たちに備えていた。
「クソッ! 奴らもう来たのか! ってことは、もうあいつらは」
「うろたえるな! 俺たちでこいつらを全滅させればいい! それで終わりするんだ! そうだろ!」
『応!』
マフィアたちはまるで自分が正義とでも言いたげな物言いで、自らを鼓舞している。俺は肩を竦めて物陰に隠れ、ゲーム画面から戦況を確認する。
そこで、スキルがピコンと発動した。俺はそのキャラを見て笑ってしまう。
「そうですね、終わりにしましょう。―――氷砲」
中空に魔法陣が展開され、ダニカの「撃て」の一言で、構えていた連中の陣形が押しつぶされる。
降り注いだ氷塊は、容易く人間の体を分断する。その威力は大砲を打ち込むようなもの。「負けましたわ~」で済ませられる怪物少女たちがおかしいのだ。
「っ!? クソっ! クソクソクソクソクソぉっ!」
可哀想にたった一人撃ち漏らしで生き残ってしまったマフィアが、半狂乱で銃撃してくる。そこで、スキルが発動した。
クスクスクス……。と、どこからともなく笑い声が聞こえてくる。それに生き残りが、「何だ! どこだぁ!」と銃弾をまき散らしながら左右を見る。
その直後、生き残りは一瞬で血をすべて吸い取られ、ミイラのようになって倒れ伏した。
背後からレイの姿が現れる。白銀のハーフツインテールの髪をなびかせ、真っ赤なドレスを翻して、いつものように「クスクスクス……」と笑っている。
「人間ってやっぱりザコザコ~。見えないだけでこうなんだもんね~。でも、もっと節制した方が良いよ? 教授の血とは、比べ物にならないくらいマズかったから♡」
ミイラ同然になって死ぬマフィアを、レイは嘲って踏み越えた。まったく容赦ない煽りと勝利だ。
と思っていたら反応する怪物少女が一人。
「え、飲んだのか? ウチも飲ませてもらってないのに?」
「じ、ジーニャ? 目が怖いよ~?」
「ズル! ズルだズル! ウチもオヤブンのこと食べたい! たーべーたーいー!」
最前線で、ジーニャが駄々をこねている。人間食べます組はちょっと食欲混ざった目で俺を見てるんだな、と俺はメモしておく。新しい論文にまとめないと。
「オヤブン! ご褒美! ご褒美ちょうだい! オヤブンの血とかお肉とか食べたい!」
「血なら頑張った時に少し上げる」
「やったー!」
飛び上がって喜ぶジーニャだ。なお他の怪物少女たちは、ご褒美は欲しいけど人体はちょっと……という引き気味スタンスっぽい顔をしている。割とみんな違うのね。
そうしてさらに前進すると、俺は奴と再会した。髭面のグラサン野郎。今回のボス。用心棒だ。
「この短い時間で、よくもまぁここまで散らかしたもんだ。ええ?」
用心棒は、言いながら両手に銃を構えた。右手にはショットガン。左手には弾倉の円いサブマシンガン。銃の構え方ではない。脱力して、まるで二刀流の剣士のように、銃を持っている。
「……懐かしいな。初心者教授が詰まる難所、4-5のボス、用心棒バウンス。お前に対する憎しみで、リリース初期はスレが加速したもんだ」
「なぁに言ってっか分かんねぇけどよ。化け物女は殺すぜ。その頭目であるお前もだ、教授」
不気味に用心棒は笑う。俺はそれに、「ハ」と短く笑って、言い返した。
「こっちのセリフだ。お前のその言い方、さぞや怪物少女を殺してきたんだろう。つまり、お前は俺が初めて対峙する、怪物少女の悲劇の運命そのものだ」
「何言ってやがる。運命? 悲劇? 頭おかしいのかお前」
「分かんないか。なら、分かるように言ってやる。―――お前のことは、絶対に殺すって言ってんだよ」
俺はオートモードを解く。奴は実力者だ。だから、俺の手で殺すべきだ。
そこで、ひとりでに別窓でゲーム画面が開いた。まるで用心棒視点かのような語りで、状況が描写される。
これは、と思う。ストーリー画面で現状を知る、という使い方は一度したが、なるほど。戦闘中だと敵の頭の中を覗き見るようなこともできるのか。面白い。
そんな、俺に突如発生した強烈な有利にも気づかず、用心棒は高笑いする。
「ハハハッ! 吹いたもんだな教授! お前の手腕は認めるが、オレは殺せねぇよ」
「それは、俺たちを倒したときに取っておくべき言葉だな」
俺と用心棒は睨み合う。そして同時に、腕を振るった。
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