第21話 ミミとおしゃべり脳みそのブレーノ

 脳みそに繋がる顔っぽい表示をするモニターは、マシンガントークを繰り広げた。


「おや! おやおやおやややや! これはこれは最近噂の時の人、教授ではございませんか! お隣のかわいこちゃんはヴァンガのレイちゃんですね! これはこれはご贔屓に!」


「ブレーノ、うるさい~。今日は教授とデートしに来たんだから、少しは静かにしててよね」


「おぉっとこれはこれはこのブレーノ痛恨の極み! と、教授には改めて名乗らねばなりませんねうわっはっはっは!」


 ゲームで知っていたが、実に騒がしい。俺は半笑いでその様子を眺める。


 脳みそは名乗った。


「私はこの店で働いております、ブレーノ、と申します! ちまたでは『おしゃべり脳みそ』のブレーノなんて呼ばれることもありますね! ええ!」


「ご丁寧にどうも。俺は教授、よろしく」


「こちらこそご丁寧にありがとうございます! ああ、握手する手でもあれば良かったんですが、生憎と在庫を切らしておりまして。美味しいんですよ? ハンド型ゼリー」


 うーん悪趣味だ。ちょっと興味あるけど。


「ブレーノ、うるさ……お客さん?」


 すると店の奥から、少女が現れた。


 薄桃色のウェーブする髪に紫の瞳の垂れ目。黒のキャミソールの上に、片方の肩にだけデニムのオーバーオールを引っ掛けている。パンク系作業着って感じの服装だ。


 頭には触覚を思わせるピンクのアホ毛が、二つ跳ねている。背中には妖精っぽい翅。手には鉱石が埋め込まれたゴツイ手袋があり、腰のベルトには渦巻貝殻の付いた棒がある。


「教授だ。こんち」


「あ、そうか。ここの店主ってミミか」


 ということで、最近別口で救出していた怪物少女ことミミである。


 ミミ。ユゴス総合開発の主であり、珍妙な開発物を多く抱える異次元のエンジニアだ。パンク系作業ガールなミミは、店番は脳みそのブレーノに任せて基本裏に引っ込んでいる。


「ミミじゃ~ん。ここ、ミミのお店だったんだ~」


 レイも上機嫌でミミに手を振っている。それに気づいて、ミミも手を振り返す。


 ミミを助けたのは、ガチャ、捜索の魔術で判明していた残りの場所を巡った時のことだ。例のごとく『霧払いの魔術』である。もちろん石が削れた。


 助けると、ミミはまぁまぁ恩義を感じてくれたのか、ローテンションながら俺のことを気に入ってくれた様子だった。詳しい話はまた今度語ることもあろう。


 ともかく、そういう間柄だった。こういうのがガチャを回すだけ増えていくので、俺の顔が際限なく広くなっていく。嬉しいことだが手に負えない感がある。


「レイも来たんだ。ようこそ。好きに見てって」


 ローテンションなミミは、それだけ言ってまた奥に引っ込もうとする。俺は慌ててそれを止めた。


「ごめんミミ、今回は買い物というより、依頼があって来たんだ」


「ブレーノみたいに脳みそになりたいの? いいよ。大切にするね」


「全然違う」


 マッドサイエンティストめ。


「っていうか、教授って何しに来たの~? 知らないままついてきちゃった」


「みんなの装備品のアップグレードがしたかったんだよ。で、ミミを頼りに来た」


「ふぅ~ん? 何かムカつくけど~、ミミは確かに腕がいいから、仕方ないか」


「ブイ」


 ミミはご機嫌でピースサインを作っている。チョキチョキ開閉してる。可愛い。


 と思っていたら、ミミがピースを作ったまま聞いてきた。


「どれをアップグレードすればいい?」


「これとこれとこれとこれとこれ……とこれ。あとこれ。素材はここから適当に使って」


「多。分かった、一時間でやるね」


「この量を……?」


 渡した俺が言うのも何だが、絶対数日掛かりの作業になると思った。そういう分量だもんこれ。


「教授のポッケ、今意味わかんない広がり方しなかった~?」


 レイは目をパチパチまばたきさせている。俺のゲーム画面型魔術、何かアイテムボックスっぽい役割もしてくれるんだよな。便利だわホント。


「あと、これ代金な。受け取ってくれ」


「教授には返しきれない恩があるからいい。どうしてもって言うなら、脳みそ」


「譲歩風に条件を吊り上げるんじゃないよ」


「つれない教授……じゃあ次からワタシも教授の仲間に入れて。そしたら値引き」


 ミミはローテンションな瞳で俺を見上げてくる。まぁ枠一人分余ってたし、誰入れようか迷ってたし、この際だからミミを入れるか。


「分かった。それならいいよ。値引きも助かる」


「うわ~教授ザコザコ~! ミミの交渉に引っかかってる~! クスクスクス」


 レイがここぞとばかり俺をからかってくる。するとミミが言った。


「代わりにレイの脳みそ貰うね」


「やめてっ! ごめんなさい! 脳みそ取らないで!」


 レイは半泣きで俺の後ろに隠れた。俺のことをからかう癖に俺を頼るのだから可愛いもの。


「怪物少女の脳みそはあんまり取らないでやってくれ……。俺がショックで倒れちゃう」


「教授が倒れたら大変だからやめとく。命拾いしたね、レイ」


「教授~……!」


 俺に抱き着いてくるレイを撫でる。「じゃ、一時間後に」と言って、山のような依頼物を抱えてミミは引っ込んでいった。


 盛大に話し始めるのはおしゃべり脳みそのブレーノだ。


「いや実に仲睦まじい! 実はミミ店長から教授の話はかねがね聞いておりまして! ええ! 店長は最近『教授にまた会えないかなぁ』と夜もあまり寝付けないご様子で」


 大声でしゃべりだしたブレーノに、ミミがカツカツと早足で戻ってきて、何か鈍器っぽいもので、ガツン! と脳みその入った容器を叩いた。


 それからまたカツカツとミミが奥の方に戻っていく。寸前で、ちらとこっちを見て、赤面気味に言った。


「……次部隊動かすときは、呼んでね」


「もちろん。ミミには期待してるよ」


「嬉しい。じゃあ」


 そう言ってミミは引っ込んだ。ブレーノの暴露に否定とかしないんだ……恥ずかしがる中でもアタックするんだ……強いな。つよかわだ。


 一方ブレーノは、モニターに浮かぶ顔の目をグルグルマークに変えて、こう言っていた。


「あぁ~脳が、脳が揺れますぅ~、おろろろろろろ」


「……一時間後まで外で遊ぶか?」


「そうしよ~。ここだとブレーノうるさいし」


 ブレーノ、好きなキャラなんだけど、怪物少女たちからは割と評判が低いらしい。うるさいのはまぁその通りだから、仕方ないのかもしれないが。











―――――――――――――――――――――――


New!


名前:ミミ

所属:アーカムシティ/ユゴス総合開発

二つ名:便利屋

あだ名:パンク系作業ガール

外見: 薄桃色のウェーブする髪に紫の垂れ目。真っ白なキャミソールの上に、片方の肩にだけデニムのオーバーオールを引っ掛けている少女。ピンクの大きな二つのアホ毛が特徴で、背中に二対の翅を有する。鉱石が埋め込まれた作業手袋をつけ、腰のベルトには渦巻銃がおさめられている。

特殊能力:電撃狙撃:敵一人に電撃銃を発砲する。ダメージ加え、敵に麻痺の状態異常を加える。

通常能力:白の噴霧器:ランダムな敵に凍える霧を吹きかけ、状態異常凍傷ダメージを継続的に与える。命中率ダウン効果あり。

攻撃属性:霧

防御属性:混沌(☆3以上で解放。解放前は『物理』)


イメージ画像

https://kakuyomu.jp/users/Ichimori_nyaru666/news/16817330658919843309

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