第18話 はじめてのログインボーナス

 翌朝起きると、クロがニコニコでボードを持っていた。


「おっはようマスター! 今日も教授のお仕事を頑張る君に、朝のプレゼントを上げよう!」


 クロが一日目と書かれた枠の隠しを取る。その下から、育成用のアイテムが出てきた。


「今日はこのプレゼントだよ! さぁ今日も頑張っていこう!」


「ログボだ……ログインボーナスだ……」


 ログアウトもクソもないのに貰えるの嬉しいな。そう思いながら、俺はベッドから上体を起こした。


「ふぁ……。おはようクロ。今日もかわ。寝起きは口が滑るな」


「……もう慣れたから素直に言っていいよ」


「今日も超絶可愛い」


「超絶……」


 クロは地蔵みたいな顔をして、ちょっと照れ気味でいる。だが狼狽えたりはしないあたり、本当に慣れたみたいだ。可愛いって言われ慣れてきた推しが尊い。自尊心を高めていけ。


「しかし、このタイミングでログボをくれるようになったってことは、やっとチュートリアルが終わったってところか」


「ろぐ……?」


「ああ、こっちの話。じゃあここからやっと本編って感じだな。ボチボチ進めていきますか」


 前世では顔を洗うよりも先にログボを貰ってたが、今世でもそうなるとは。そう思いながら、俺は寝室を離れて顔を洗いに向かう。


 一通り済ませて食堂に赴くと、ジーニャとレイの二人が睨み合いながら丸机を囲んでいた。


「おはよう二人とも。昨日はよく眠れた?」


「あっ、オヤブン! おはようっ! うんっ、ぐっすり眠れたぞ! フカフカのベッド気持ちよかった!」


「あ、教授~。ねぇ聞いてよ。このゲテモノ食い女、いつもゲテモノばっかり食べてる癖に、一丁前に普通の食べ物食べようとしてて、痛い!」


「とりあえずレイが悪いのは分かった」


 俺はチョップで制裁だ。レイは頭を押さえて「うぅ~」と唸っている。人間ごときの手加減チョップ、絶対痛くないだろお前。


「ケンカの理由はレイの毒舌?」


「うん。知ってたけどこいつ性格ひどいぞ! オヤブンも気を付けて!」


「ジーニャはいい子だなぁ~」


 変わらず忠犬なジーニャを撫でる。


「ゴロゴロゴロゴロ……」


「相変わらず犬なのか猫なのか……」


「どっちでもない……なでなで気持ちいい……」


 可愛いからいいか。些細な問題だ。


 俺が二人に同席すると、ブリキのロボットが朝食を持ってきた。それに「いただきます」とパクつきながら、俺は尋ねる。


「っていうか昨日の三つ巴、うやむやになったけど、結局何が原因だったんだ?」


「「食料の奪い合い」」


 二人がハモってからお互いに唸り合う。どうどうどう。


 諫めてから深いところを問う。


「食料って人間?」


「んーん、ウチのは正直何でも食べるから、人間にこだわったりはしないぞ」


 見ればジーニャは、俺と同じ内容の朝食を食べている。一方レイは輸血パックみたいなのをチューチュー吸っている。大学何でもあるな。


「けど、人間の死体を食べることもあるからな~……。それで人間からは敵視されたのかも。まさか殺されるところだったなんてなー」


「あんまり気にしなくていいよ」


「でも! オヤブンがウチのこと守ってくれたんだもんな! ありがとオヤブン!」


 ジーニャは目をキラキラさせて礼を言ってくる。素直でかわいい奴だなぁと俺は一撫でだ。


 にしても、死を目の当たりにするのは、帳消しにできたとしても刺激が強い。石がなかったら絶対寝れなかった自信がある。あったからぐっすりだったけど。すやすやだ。


「今まではこの辺の人間たちともほどほどに付き合いがあったんだけど、今回はびっくりしたな~。罪人の死体分けてくれって言いに行ったら、いきなりバンッ、だぞ?」


 今までは親交があって、それで近づいたら銃撃された、という運びらしい。素直なジーニャの話だ。信用できる話だと思う。


 さてレイは、と視線を向けると、レイは得意げに話し始めた。


「アタシも元々ザコザコ人間相手でも差別しないから、魔術師なんかに呼び出されたら血を代償に言うこと聞く、みたいなことはあったよ? けど、今回は呼び出された瞬間に」


「バンッ、か」


「驚いたよね~。それで下僕の一人が死んだの。人間ごときの武器ではなかなか死なないはずなのに、一発で。それでブチギレて人間襲ってたら、そっちのゲテモノ食いが乱入して」


「レイ」


 俺が名を呼んで諫めると、レイは唇を尖らせて目を逸らす。


「……ジーニャの一派が暴れてて、流石にザコ人間を皆殺しにされたら困るから、こっちにも攻撃して。で、こじれに拗れて長引いて~」


「大混戦、ってわけか」


 話を聞くに、どちらも人間とは親交があって、だが突如として銃撃を受けた、と言うのが原因らしい。


 となると、疑わしいのは人間の方だ。いきなり怪物少女たちと敵対した、ということになる。しかも昨日二人を撃った連中の言葉を思い出す限り、賞金首に挙げていた。


「ミスティック・タトゥー、だったか」


 俺がうろ覚えの中で二人に確認すると、二人はどちらも渋面になる。


「うん、そうだぞー……」


「ザコザコ人間の中でも、特にアタシたちを嫌ってる一派だよね~。元々アタシらとつるんでた人間たちも、タトゥーのとこに飲み込まれちゃったのかな~?」


「多分そうだぞー……。あいつらが目立つようになってから、アーカムはドンドン生きにくくなったし」


「治安も荒れたよね~。ちょっと前までこんな争いばっかりじゃなかったのに。もうほとんどの人間勢力が、あいつらに屈しちゃったんじゃない?」


 お互いに愚痴り合う二人だ。ダニカとハミングみたいに、徹底的に嫌い合っている、というほどの関係性ではないらしい。


「一回地下街連合の仲間と攻撃仕掛けたら撃退されちゃったしなー。あいつら、人間の癖にかなり強いんだ」


 ジーニャの話を聞いて、少し俺は心当たりがあった。今のみんなの育成状況だと勝てないだろう。じわじわ育成を進めて、勝てるタイミングで挑む必要がある。


「でも~、大学でこうやって血が飲めるなら~、ザコザコ人間なんか皆殺しにしちゃってもいいかもね~。食料が手に入るなら、あんな奴らの言うこと聞く必要ないし~」


「確かに……お、オヤブン、ウチの子分、ここに連れてきてもいいか? 連れてきても良ければ、生きてくのがすっごく楽になるんだ! もちろん言うことは聞かせるから!」


 二人から言われて、俺は「そうだなぁ」と言いながら、近くの別の机に腰かけていたクロを見る。


 クロは胸元の懐中時計を取り出して、何かを確認した。それから、俺にだけ聞こえる声で答える。


「問題ないよ。仕事を任せてもいいなら、むしろ収支がプラスになる」


「二人とも、眷属たちも連れてきてもいいよ。いつでもおいで。代わりに、手を借りることにはなるけど」


「オヤブ~ン! ウチ、オヤブンに一生ついてく! 大好き!」


「クスクスクス……。教授ってば無理しちゃって~。仕方ないから、ちょっとくらいは手伝ってあげる~」


 ジーニャは素直に、レイは天邪鬼に受け答える。俺はそんな二人に「これからよろしく」と告げて、朝食を食べ終えた。


 三人で朝食を食べ終えたあたりで、昨日は帰宅した三人、ダニカ、ハミング、パーラの三人が食堂に現れた。俺はその姿を確かめて、言う。


「さて、じゃあこれから正式に、大学治安維持部隊の発足、及び最初の治安維持活動だ。気張っていこう」


 怪物少女五人が頷いた。俺はにっこり微笑んでゲーム画面を起動する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る