第13話 分からせろ! 吸血ガキ
俺たち三人は、正座で並ばせたジーニャたち犬人間隊の前に立っていた。
「ということで、今から君たちは俺の指揮下につきます。諸々良いようにするので、一旦従うこと」
「くそ……人間なんかの言うこと聞くのかよ……」「でも、隊長を助けてたぜ? 信用できるんじゃないか?」「人間、かぁ。うーむ……」
犬人間たちは俺の指揮下につくのが不服な様子。別にそれならつかなくていいんだけどな。俺が欲しいのジーニャだけだし。
「お前らうるさいぞ! オヤブン! これからよろしくっ! ですっ!」
そして忠犬のように全体を律するジーニャである。正座で地面に座って、眉をきりりとさせて忠臣面をしている。可愛い。瑞々しい太ももで膝枕して欲しい。
「さて、じゃあ一度ここで、状況をはっきりさせておこうか」
俺が説明の構えを取ると、みんなが傾聴の姿勢になる。
「俺たちはここに人を探しに来た。この辺りでは確か三人だったかな。で、幸か不幸かその内二人は、この三つ巴の戦いのトップに立つ怪物少女になる」
「つまり、オヤブンはウチを探しに来たってこと?」
「そうだな。ジーニャは一人目だ」
「……にゃは、一人目……」
ジーニャは何か知らんが嬉しそうだ。可愛いね。
「「……」」
ダニカとハミングが、だいぶ冷たい目でジーニャを見ているが気にしないことにする。
「どういう理由で探しに来たかって言うと、まぁ仲間にならないかって言う勧誘なんだけど、詳しい部分は俺もイマイチ分かってないから省略する。でだ」
俺はジーニャを見る。
「君たちにやってもらいたいのは、敵勢力のトップに立つ透明な吸血鬼、レイの捜索だ。まずジーニャは、俺の部隊に入って一緒に戦ってほしい」
「分かった! です! オヤブン!」
「敬語やめて良いよ」
「分かったオヤブン!」
ジーニャのお目目はキラキラだ。
「ジーニャ隊は危険だろうから二人一組で捜索、人間には可能な限り攻撃せず動いてくれ。見つかり次第ここに報告に戻ること。俺たちが急行すれば多分捕まえられる」
『……』
俺の指示に犬人間ズは不服そうだ。と思っていたらジーニャが口を開いた。
「お前ら、返事はどうした!」
『お、応!』
ジーニャの一喝で、犬人間ズは言うことを聞いてくれるようだった。ボヤきながら、ぞろぞろと屋上から離れて行く。
「さて、じゃあジーニャだけ俺と一緒に来てくれるか?」
「? うん、分かったぞ」
「他の二人は待機を頼む」
俺は言いながら、『戦闘開始』ボタンをタップして、二人に指示を出した。それにハッとしたのがダニカ、すでに何となく察していたのがハミングだ。
「わっ、分かりました。ここで待機します」
「教授、二人きりの話をご所望でしたら、ちょうどこの下の階が空いていますわ」
「お、助かる。じゃあジーニャ、そこに行こう」
「うん! 何話すんだー?」
「二人きりになってからな」
ハミングの提案に従う形で、俺たちは歩き始める。今回は珍しく、俺が先導する形だ。
階段から屋上を離れ、直下の空き部屋に入る。適度に広いことを確認して、俺は奥まで進む。それから、くるりと振り返った。
「オヤブン?」
「よし、じゃあちょっと話が―――」
俺が口を開いた瞬間、周囲の空気がブレ始めた。
「っ!?」
ジーニャが驚いて周囲を見る。この部屋の扉が一人で強く締められ、鍵をかけられる。
同時響くのは、クスクスクス……、という笑い声だ。
「人間ってば、間抜けだね~。アレだけ強力な護衛を連れていながら、わざわざそれを遠ざけちゃうなんて……。でもその愚かさ、人間らしくて好きだよ~。クスクスクス……」
そう言いながら出口側の壁に現れたのは、少女だった。
白銀の長髪をツーサイドアップにしていた。深紅の瞳を持つ、小柄で華奢な少女だ。服は赤と黒を基調としたドレスで、星の髪飾りを付けている。
色素の薄い身体に赤っぽい格好は、実に吸血鬼らしい。いや、実際に、彼女は吸血鬼なのだ。
「アタシの声、覚えてる~? 『ヴァンプ・ガーデン』、レイ。この市街に立ち入った時に、せっかく教えてあげたのに。アタシを舐めたお前を、アタシ手ずから殺してあげる~って」
それが、こんな隙だらけなんて笑っちゃう。レイはそう言って、クスクスクス……と俺たちを笑っている。それに俺は、満足感と共に頷いた。
スケスケナマイキ吸血鬼、レイ。言わずもがな、俺の推しである。
いわゆるナマイキ系で、事あるごとに他のキャラを煽っては何かしらの痛い目を見て分からされる、というキャラだ。愛すべき敵キャラという感じ。
「っ! オヤブン! こいつヴァンガのレイだ! ウチらの敵の一派だよ!」
ジーニャが慌てて警鐘を鳴らす。勢力的にはそんな感じだ。同じ場所に住んでるんだから仲良くすればいいのに。っていうかヴァンガて。ヴァンプ・ガーデンの略し方が酷い。
「こんにちは、屍食らいの犬畜生さん。いい加減ウザイから、お前もここで殺しちゃうよ。地下街連合はみんな臭くて嫌いなんだ~」
「くっ、臭くないもん! ちゃんと浴びれる日はシャワー浴びてるもん! ね! オヤブン! ウチ臭くないよね! ね!」
言いながら、ジーニャが俺に自分の匂いを嗅がせようとしてくる。え、いいんですか? ジーニャの濃厚そうな匂い、嗅いで良いんですか!?
「ジーニャ、ステイ」
「わ、わん」
理性がどうにか本能に打ち勝って、俺はジーニャを諫めた。危なかった……。今度個人的に嗅がせてもらおう。
ではなくて、だな。
「つまり、君は俺が絶体絶命だって言いたいわけだ。レイ」
「そうだよ。やっぱり人間って頭も弱いんだね~。その程度の理解も遅いだなんて。でも、大丈夫だよ~っ。ちゃんと、アタシたちの食べ物にはなれるから~」
透明な何かが、じわりと俺たちに近づき始めている。ジーニャが前に出て威嚇するが、あまり効いている感じがしない。
「うんうん。確かにそうだな。ちゃんと武力があったのに、それを捨てて密室に籠って。襲い掛かるには絶好のチャンスだよな」
「でしょ~? そういう状況を自分で作っちゃったんだもん。都合よすぎて可笑しくなっちゃって~」
クスクスクス……、とレイは続ける。それに、俺はこう返した。
「奇遇だな、俺もなんだ」
「えっ?」
レイがキョトンとする。俺はニィィイイと大きく笑みを浮かべ、号令をかけた。
「密室だ! 奴らを逃がすな!」
「この時を待っていましたわ、教授」
不可視の触手を振り回し、ドアを簡単に破って現れたのはハミングだった。俺はその黄色のドレス姿を確認して、ハミングのスキルを発動させる。
「さぁ皆様!? 黄衣の歌姫の絶唱をお聞きあれ!」
『黄色の歌』
マイクを口に運んで、慟哭するように絶唱するハミング。吠えるように泣き叫ぶかのような歌が、部屋中に響き渡る。
「うひっ、……あれ、今度は苦しくない?」
ジーニャが咄嗟に耳を塞ぎ、自分に何もないことに気付く。
ハミングの歌は敵にのみ影響を及ぼす魔術だ。だから味方になった今、ジーニャには効かない。無論俺もだ。
一方、もろに影響を受けた、レイ含むスケスケ吸血鬼の被害は甚大だった。
空中で何か不可視のものが揺らめき、悶えている。それは次第に姿を現し、半透明な姿をさらした。
それは、空に浮かぶ全方位イソギンチャクのような姿をしていた。手を思わせるかぎ爪があり、イソギンチャクの先端には口のようなものが開いている。
そんな怪物が、この部屋だけで十を超えるほどの数現れる。
怪物たちは一様に肌を泡立たせ、地面に倒れ伏した。レイも耳を押さえて、苦しそうにこちらを睨んでいる。それに俺は、得意になって答えた。
「いぃぃぃいい……! な、何でぇ……っ? 待機してろって、言ってたのにぃ……!」
半泣きで苦しむレイに、俺は教えてやる。
「透明でしかも空を飛べる奴が、素直に隠れてるわけないのは分かってたからな。絶対どこかで見てて隙を伺ってるはずだから、ブラフをかけたんだよ」
で、と俺は問う。
「どうかな。この辺りで降参してくれると、俺としてもやりやすいんだけど」
「す、する訳ないじゃん……! みんな起きて! このウザウザ人間、吸い殺しちゃお!」
悔しさに俺を睨みつけ、レイは号令を出す。それに反応して、他のスケスケ吸血鬼たちが宙に浮いて反攻の意を示す。
「だってさ。仕方ない、ダニカ」
「はい、教授。まずこの矮小な怪物たちに、身の程を叩き込んであげましょう」
ダニカのスキルが発動する。魔法陣が浮かび、そこから氷塊が放たれる。
「え……? あぎゃっ」
犬人間ズ同様に、スケスケ吸血鬼たちも氷砲を受けて、ボーリングのピンのように吹っ飛んだ。
その内、俺の方向に飛んできたレイは「臭くないもん!」とジーニャにさらに蹴り飛ばされ、地面を転がり沈黙する。
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New!
名前:レイ
所属:アーカムシティ/ヴァンプ・ガーデン
あだ名:ナマイキスケスケ吸血鬼
外見: 白銀色のツーサイドアップに深紅の瞳を持つ小柄で華奢な少女。赤と黒を基調としたボディラインの目立つドレスを着こなし、星型の髪飾りをしている。
特殊能力:『血、ちゅーちゅーしてあげるw』:単体の敵の背後に回って吸血する。通常能力が一時的に使えなくなる代わりに、相手に高ダメージと攻撃力低下の状態異常をあたえ、回復する。
通常能力:『見付けられるかな~?w』:自身を透明化し、回避率を極端に高める。
攻撃属性:闇
防御属性:闇
イメージ画像
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