第12話 躾けろ! 犬猫娘
ジーニャのキャラ特性を一言で表現すると、『回避タンク』だ。
タンク。部隊の最前線に立ち、敵のヘイトを買って、味方に攻撃が行かないようにする役割。部隊にとっての盾。
その中でも、ジーニャは自らの耐久力ではなく、回避力でもってタンクを成す。故に『回避タンク』だ。
回避タンクは敵の攻撃が中々当たらないので、HPがほとんど減らないことを特徴とする。逆に、偶に食らうと脆かったり、高命中値持ちには無力になったりもする。
そんな訳で、ジーニャは自らの役割を全うするように、最前線に立ってこちらに襲い来た。
「にゃらぁぁあああ!」
ダニカ、ハミングの攻撃をすり抜けるようにして、ジーニャは懐にもぐりこみ、二人に一撃を入れて離脱した。二人のHPはまだ十分だが、プライドの問題が厳しい顔をしている。
「くっ、まさかこんなところにここまでの相手がいるとは……!」
「ふふふ……! 本当に癪に障りますわ……! 捕まえてギッタンギッタンにして差し上げます!」
ダニカは警戒しすぎているし、ハミングは頭に血が上りすぎている。俺は息を吐いて、二人に言った。
「二人とも、冷静になって。ダニカは肩に力が入りすぎだ。ハミングは昨日、怒って俺に手玉に取られたの忘れた?」
俺の指摘にダニカは一瞬固まってから、息を吐いて肩を回した。ハミングは「う」と呻いてから、しょぼくれた顔で俺を見る。
俺は苦笑気味に続けた。
「二人とも、深呼吸して、俺の指示に従ってくれ。俺が圧勝を約束したんだ。それを信じて」
「……! はい!」
「そう、ですわね。昨日もそうでしたわ。ならば、ええ。わたくしも教授を信じるだけです」
深呼吸を経て、二人の状態が程よい具合に安定する。一連のやり取りを眺めていたジーニャが「ふぅん?」と俺を見つめている。
「人間、割とやるみたいじゃん。お前はどうでもよかったけど、やっぱりウチが勝ったら他の二人と一緒に子分にする!」
「いや、俺が勝ってジーニャを子分にする。まずはお手から教えてあげよう」
「なっ、何をーっ!?」
ジーニャがぷんすこ怒り始める。「教授が一番挑発上手いですよね」「まったくですわ」と二人が言い合っている。
「もーあったま来た! 全員、掛かれぇっ!」
『応!』
犬人間たちが合唱する。一糸乱れぬ統率は、訓練されてきた証だ。
犬猫ショーパン娘ことジーニャの号令で、連中は同時に俺たちに襲い掛かってきた。さて、と考え、俺は拡張指揮から指示を出す。
「まずは、足止めから掛かろう」
ダニカの爪の斬撃が地を裂き、ハミングのかまいたちが飛ぶ。単なる犬人間はそれでダメージを負って倒れたり停止したりするが、ジーニャは別だ。
「ほっ、やっ!」
軽い調子で素早く攻撃を避けるジーニャ。実に優秀な回避タンクだ。さっさと俺の軍門に下れ! 大学の怪物少女になれっ!
「くっ! 本当に、ちょこまかと!」
ダニカが苦しげに歯噛みする。ハミングの不可視の触手が迫ったが、それもジーニャは躱してのけた。「あっぶなー!」と言いつつ、上機嫌に笑っている。
「みんな! ウチが盾になる! その後ろから飛び掛かって!」
『応!』
ジーニャの指示に従って、犬人間たちがジーニャの背後に固まった。ジーニャの攻撃にタイミングに合わせて走り来るのは、安全に接近するためか。
俺は眉を顰める。犬人間たちの攻撃程度で沈む二人ではないが、俺が約束したのは圧勝だ。あまり二人のHPを減らしたくない。
ならば、うん。
ちょっと強引にやってみようか。
「ハミング、昨日みたいに触手で身を守って。ダニカ、これから俺がかなり緻密な指示を出すから、頭を空っぽにして従ってくれ」
「わっ、分かりましたわっ!」
「頭を空っぽ……!? は、はい!」
ハミングは触手の防御で、犬人間たちの攻撃が通らなくなる。自然、奴らが殺到するのはダニカの方だ。
俺は拡張指揮画面を前に指を構えながら、じっとタイミングを伺った。かなり厳しい受付時間だが、慣れたもの。推しのためならやって見せる。
「にゃらぁあああああ!」
ジーニャが攻撃に手から生やしたかぎ爪を振りかぶる。その背後から二人の犬人間が迫る。―――今だッ!
俺の操作と同時、ダニカがジーニャ含む三人の攻撃を連続でガードする。ジャストガードが発動し、さらに攻撃ボタンをワンタップでダニカが反撃に出る。
それで犬人間たちは易々と吹き飛ばされ、ジーニャは驚いた顔でのけぞった。
「お、おぉぉ!? お、お前強いな!」
「ちっ、違います! 今のは教授の指示でっ!」
ダニカの言い訳に俺は笑う。指示で動いたのはダニカ本人だろうに。
にしても……いやーほんと、指揮ゲーなのにジャスガの仕様があるのやばすぎる。もはやアクションゲームだろこれ。戦略ゲーとは思えん。
―――ジャストガード。エンドコンテンツ限定機能の拡張指揮にあるガードボタンを、敵の攻撃に合わせてタイミングよく押すことで発動する機能だ。直後の反撃を可能にする。
いくらエンドコンテンツだからって、指揮系ソシャゲの機能ではない、というのが俺の意見だ。だって完全にアクションゲームになるんだもんこれ。
だが、まぁ、嫌いではない。
レベルカンスト教授にのみ許された、通常とは異なる対戦機能。リアルタイムで行われる対戦システム。得られるのは育成素材ではなくそこでしか参照されないレートだけ。
そんな、「本編でやることなくなった奴らはこれでもやってろ」とばかり実装された、実にシンプルで自己満足しか得られない機能は、一部教授に中毒者を生み出した。
そして、その筆頭が、世界ランキング1位こそが俺なのだから、救えない。
ジーニャが再び連携を取って攻撃を仕掛けてくる。だが俺の指揮下にあるダニカに、三人同時攻撃なんて通じない。
ジャスガ、ジャスガ、ジャスガ、からの反撃。ダニカのかぎ爪は範囲が広いから最後の一回で反撃するだけで一掃できる。逆に他のタイミングだと敵から攻撃を食らう。
「わ、わ、わ、きょ、教授! わ、私、ものすごく強くなった気分です!」
「ハハッ、それはよかった」
興奮気味に言うダニカに俺は相好を崩す。マジで素直可愛いなダニカ。尾ひれがパタパタ動いている。激しい動きでスリットからパンツ見えそう。
そろそろだな、と俺はコストの溜まり具合を確認する。やっぱり部隊メンバー二人だとコストの溜まりが遅い。人数によってコスト充填速度が変わるのだ。
「こなくそ~! なら、行くぞみんなっ!」
『応!』
犬人間たちが組体操のように集まって、人間二人分の高さのタワーを作った。それをジーニャは素早く駆け上がる。―――空中から飛び掛かるつもりか!
狙いはダニカから俺へ。あの高さから跳躍すれば、ギリギリ俺にも届くだろう。俺はこの通り生身の人間なので、怪物少女に襲われたらひとたまりもない。
「だが、うん」
俺はコストが溜まったのを確認して、拡張指揮を終わらせた。
「勝負は、これで決まりだな」
ハミングのスキル画面にスライドさせ、発動を指示する。ここからのコンボで終わりとしよう。
「人間ッ! 覚悟ぉー!」
「―――ッ! 待っていましたわ、教授!」
ジーニャが犬人間タワーから高く跳躍する。狙うは俺。このまま行けば一秒後に俺は八つ裂きだ。
だが、それよりもハミングのスキル発動の方が早い。ハミングはマイクを口に近づけ、ふ、と微笑む。
「光栄に思いなさい、本来なら下等な怪物ごときが聞けるほど、黄衣の歌姫の歌は安くありませんのよ?」
息を吸う。ジーニャが俺に迫る。ハミングが歌う。
それは、まるで、慟哭のような歌だった。
「ぎゃっ!」
跳躍していたはずのジーニャが体勢を崩す。犬人間が苦しみだしてタワーが崩壊する。
ハミングの特殊スキル『黄色の歌』。泣き叫ぶような絶唱の魔術。敵は肌が泡立ち破裂する。
犬人間たちはそれで肌を破裂されて血まみれになる。ジーニャは怪物少女だけあって耐久力があるのか、地面に落下して苦しそうにするだけだ。
ゲーム的には持続ダメージとスタンの状態異常効果だけなのだが、こうしてみると凶悪なスキルだな。
が、俺は手を止めない。すでにダニカの特殊スキルを発動している。ダニカは詠唱を構築し、完成させた。
「穿て、氷砲!」
空中に展開された魔法陣から、氷塊が撃ち出される。黄色の歌と氷砲のダブルアタックは、低レベル帯なら確殺だ。
ジーニャを初めに、犬人間たちはボーリングのピンみたいに吹っ飛んだ。「うわぁ~!」と崩れていく犬人間たちに、思わずダニカとハミングたちがハイタッチしあっている。
それから我に戻ってぎくしゃくする二人にほっこりする中で、ジーニャだけがちょっと吹っ飛び過ぎていることに、俺は気が付いた。
ここは建物の屋上だ。このままの軌道で行けば、ジーニャは屋上から落ちて地面に強く打ち付けられることになる。
普通なら何とかしのぐだろう。だが今は、ダニカとハミングのコンボでダウンしている。いかに怪物少女と言えど、無抵抗で落下すれば。
「あ」
これ、やばい奴だ。
「――――ッ」
俺は遮二無二構わず駆け出した。指示が間に合うとは思えなかった。部下の犬人間も総崩れの中で、ジーニャを助けられるのは俺だけだった。
俺は犬人間たちを横切って駆け抜ける。ダニカの「教授っ?」と困惑する声が聞こえる。それを無視して、俺は屋上から高く跳躍した。
ジーニャをキャッチする。小柄な怪物少女の体をお姫様抱っこで迎える。
それからやっと、俺は自分のことに気が回った。
腕の内には目を回したジーニャ。俺たちは揃って空中にいる。屋上から飛び出したのだから、元の屋上に戻るのは無理だ。
じゃあ着地先は? 向かいの建物の屋上がある。だが遠い。届かない。俺は叫ぶ。
「ハミングッ! 助けてくれ!」
「世話の焼けるお人っ!」
俺の背中が不可視の触手で強く押され、向かいの屋上へとギリギリ届いた。俺の靴がズザザと滑る。スライディングするようにして、俺はジーニャを抱き留めていた。ケツ痛って!
「……ふぇ」
すると衝撃で目を覚ましたのか、ジーニャは俺を見上げていた。俺は荒れる呼吸を落ち着け、冷や汗を拭い、にっと笑いかける。
「これからは子分だからな。子分に命くらい懸けられなきゃ、親分失格だ」
「ひゃ、は、は、はい……オヤブン」
ジーニャは顔を一気に赤くさせて、俺の腕の中で小さく縮こまった。
―――――――――――――――――――――――
New!
名前:ジーニャ
所属:アーカムシティ/地下街連合
あだ名:犬猫太もも娘
外見:黄色の目に、オレンジの少しぼさぼさな短いツインテールをした、八重歯が目立つ少女。犬っぽいマークの付いたヘアピンを付け、かぎ爪を伸ばすことが出来る。袖の千切れた半そでTシャツにデニムショートパンツを身に纏う。
特殊能力:『食欲走狗』:自分の回避力、攻撃速度を上昇させる
通常能力:『猫背でこっそりつまみ食い』:手持ちの肉を食べて回復、混沌属性のバリアを張る。混沌属性のバリアは一定時間内混沌属性以外の攻撃に対して自動回復効果がつく
攻撃属性:混沌(☆2以上で解放。解放前は『物理』)
防御属性:闇(☆3以上で解放。解放前は『物理』)
イメージ画像
https://kakuyomu.jp/users/Ichimori_nyaru666/news/16817330658571179409
―――――――――――――――――――――――
フォロー、♡、☆、いつもありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます