産まれる命
陣痛室の外の廊下や室内を歩いたこと、そして薬の効果もあって陣痛は更に強くなり、里美の表情にはすっかり余裕が無くなった。
突然、声のボリュームが上がり里美の痛がり方に変化が起き焦る修二。
里美の急な泣き叫ぶ声を聞き、助産師が陣痛室にやってきた。
「痛い…っ!ん゛ーーっ!ん゛っーーー!いーたいーっーい!!!」
「桃瀬?大丈夫か?」
「あら、だいぶ痛そうね?ちょっと内診してみようか。…うん、七センチまで開いてるよ。今いきみたい感じある?」
声が出せず、何度も頷く里美 。
「進み、良さそうね。でも、まだ全開じゃないからいきまないで頑張って。急に出してあげようとすると赤ちゃん苦しいし小さいから、力入れると急に出ちゃうから。」
「…っ、そんなのっ…力入っちゃう…ムリだよ、きつい」
「呼吸でいきみ逃して、鼻から大きく吸って…そう、口からゆっくり吐くの、ふーーーっ、ゆっくりね…いいよー、上手。これから強いいきみ感が続くはずだから、ご主人も一緒にサポートしてあげてね。」
「はい。」
「まだ分娩室には行けないから、あとちょっと、頑張ってね。」
「もうっ、頑張れないっ!あーっ、ムリっ!」
助産師は呼吸法を促しながらも、同時に絶妙な力加減で腰を摩る。
大声で周囲に当たり散らす。
…
どのくらいの時間が経ったたろうか。
修二の手を握り、痛みの度にいきみ逃しを行う。
次第に、身体が勝手に力を入れていきんでしまう。
手を握り、いきみを逃すため呼吸をサポートする修二と、腰を摩る助産師。
「んっ!ふーっ、ん゛ーっ!あっ、ん゛…ふっ、ふー!ん゛っ…あ゛…!」
「ダメだぞ、力入れるな。ほら、ふーっ、ふーっ、ふーっ…」
「ふーっ、ふーっ、ふーっ…」
「力抜こうねー。お父さん手、力入っちゃうから一回手離そうか。
…次の痛みで内診しましょう、脚開いてね。」
次の陣痛がやってくると再び膣内に指が挿入される。
内診のたびに挿入される指が疎ましくて仕方なく、痛みのタイミングだけは本当に勘弁してもらいたかった。
「…八センチ、だいぶゆっくりね。痛み方のわりに開いていかないのよね。赤ちゃん、マイペースちゃんなのかしらね。」
「あっ、はっ、んあっ…はっ、苦し、い…修二っ…」
「桃瀬、大丈夫か?ちゃんと息しないと。」
「息、できなっ、い…はっ、んはっ、んあっ…!」
「お母さん!落ち着いてー、落ち着こう?ゆっくり吐いて、ふーっ、ふーっ、さっきと一緒だよ。息、吸ったらちゃんと吐こうね。」
背中を摩って落ち着かせようとするが、手足の震えと同時に口をパクパクさせて苦しそうな仕草を見せる。
助産師の誘導に、苦しさと痛みにより涙を流しながらも次第に落ち着きを取り戻してきた。
「大丈夫なんでしょうか…?」
「過呼吸ね。落ち着いたから大丈夫、ちゃんと息吐かないと苦しくなっちゃうからね。頑張れ、お母さん。」
「…はぁ、疲れた。もう…本当いきみたいんだけど…ダメ?」
「まだダメ。赤ちゃん苦しくなっちゃうよ、全開じゃないしまだそこまで降りてきてないの。」
里美は腕を額に当てて、苦しみに耐える。
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