苦痛と快感の間で
食事を終えた修二が部屋に向かい様子を伺うと、里美の横に座り込む。
「桃瀬?大丈夫か?」
「今は痛くない…大丈夫。」
「間隔は?」
「変わらないけど、痛みが強くなった気がする…部屋来てから電話したんだけど、十分間隔になったら連絡して入院だって。修二…痛いよ…」
「大丈夫だ、頑張れ…ここでいいか?」
「もっと下がいい…」
相変わらず腰が痛い。
腰をさ摩ってくれる、修二の力強い大きな手は安心する。
「…はぁ、はぁ、はっ…痛いっ、痛いっ、はぁ…修二くん、手つないで…」
「ん、ほら。それにしても痛そうだな…」
「はっ、ふぅ…ふぅ、大丈夫、痛みひいてきた。」
「少しでも寝られるなら寝ちゃえよ、俺もすぐ戻るから。」
「うん…でも、もう少しだけここに居て欲しい。」
「わかった。居るから安心しろ。」
手を繋いでもらうと、少し心が落ち着き安心した。
そっと髪を耳にかけてやり、頭を撫でると目を閉じ、しばらくすると寝息が聞こえて来た。
…
一時間程経過し、痛みの間隔は狭まらず痛みに耐えるのみ。
すっかり夜となり外も静けさが漂っている。
「修二さん、お姉ちゃんは?」
「陣痛に耐えて頑張ってるよ。」
「痛み、間隔短くなって早く進んで欲しいけど…まだ予定日まで早いわよね。」
色々と歩美も気にかけている。
里美のこともあり、落ち着かない修二と歩美。
夫婦の事に妹の歩美を巻き込むのは申し訳なかったが、やはり姉のことは気になるのであろう。
修二も風呂と身支度を終えて寝室に向かう。
「…あれ?起きてたのか。」
「痛くて…寝られない…」
「痛み強くなってきたか?」
「うんっ、あのさ、痛み来たら腰、押して欲しいの。押しながら強くさする感じ…」
肩を上げ下げし、時折声を漏らしながら深呼吸で痛みを逃す。
お腹をさする里美と、腰をマッサージする修二。
「ここか?」
「うん…そこで、大丈夫。」
「はぁ…これかなり体力無くなるわ。この間のなんてまだ全然痛くない方よ…これ、痛すぎて勝手に涙が出てくるもん。」
里美は弱々しい声で返事をすると、目を閉じて痛みに耐える。
痛みが去った後は合間をぬって水分を補給しながら体力回復に努め、痛みのない時間は僅かな睡眠をとる。
修二は先ほどと同じように腰のマッサージを続けた。
「あぁ、来る…っ!」
「桃瀬、もう間隔短くなってるんじゃないか?もう電話しちゃえ。」
「もう、そうする…」
スマホのアプリで記録をとっているが、十五分間隔で一分程の痛みが続く。
このまま産まれるのだろうと、修二は予想していた。
…
「すみません、先程も電話した賀城ですが…痛み…結構強くなってて、もう十分…なんですけど…」
「わかりました、じゃあ入院準備持って来れるかな。ご主人いる?」
「はい…もう帰ってます。」
「夕飯は食べたかしら?食べられるならちょっとずつでも何か食べて、力つけておいてね。じゃあ、待ってるわね、気をつけて。」
息も絶え絶えに電話をかけると、入院のための荷物を持参して来院するよう案内を受けた。
ついにやって来た。
親となる時が迫る二人の男女は、無事に新たな命を産み出すことを願った。
「さて、いよいよだな。俺も頑張らないと。」
…
「修二くん…もう、来てって。ごめん、車お願い…」
「そうか、荷物持つから。準備あとは何いるの?俺やるから座ってな。」
「お姉ちゃん…頑張ってね。」
里美はその場に立ち上がるだけでも、その動作がつらい。
母子手帳や財布など、細々と必要な物をまとめて修二に手渡す。
歩美の見送りを受けながら玄関で壁に手をつき、一度痛みを逃してからエレベーターまで向かうと、ゆっくりと修二の補助をうけながらマンションの下まで到着した。
声を出す気力もなく顔を歪めながら頷くと、声を押し殺しながらエントランスの柱に手を掛け「はぁ、はぁ…」と腰を揺らしながら痛みに耐える。
「車、持ってくるから、ここで待ってろ。」
「また来た、痛い…これ…もう、十分間隔じゃないよ…」
「大丈夫か?なんか痛みのペース早そうだな。ほら、歩けるか…」
車を持ってきた修二も、しゃがみ込んで痛みに耐える里美のその様子を見て同様に感じていた。
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