母になるために

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体力を奪う妊娠悪阻により入院することになった里美。

里美の妊娠報告に正直良い気はしていなかった利佳子は入院の連絡を受けるが…

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数日後、仕事の合間をぬって里美は病院へ妊婦検診に来ていた。


「悪阻はどう?」

「変わらないです。本当、辛くて…もう」

「そうよね、あら?まだ母子手帳もらってきてないの?」

「すいません、具合悪くて取りに行かれてなくて。仕事もあったりでなかなか行けなくって。」

「取りに行くのは旦那さんでも良いのよ、次回は持ってきてね。今日も点滴していくわよね?」

「はい、お願いします…」


お腹の子の成長は至って順調とのこと。

母体の不調と真逆にグルグルと子宮の中で回る姿を見ると、心は若干晴れやかになった。

ただ、問題なのは母体である里美の身体。

体力の消耗が激しく、そろそろ本当に仕事どころではなくなってきている。

仕事の合間をぬって点滴のために通院することも、なかなか大変なことなのだ。


「じゃあ、用意するからちょっと待合室で待っててね。」


不快な胃をさすりながら、待合室で待機する。


「う゛ぅ、ぎもぢわるいよぉ……」

「桃瀬さん、お待たせ。こっちにどうぞ。」


看護師に呼ばれて処置室に向かう。

腕に針を刺されることにも慣れ、この気持ち悪さが無くなるのであればもうどうにでもなれという思いで身を任せる。

あっという間に腕に点滴が繋がると、看護師が説明を始めた。


「桃瀬さんね、ちょっと脱水気味なのと体重減少が急だから、一度入院しましょうかって。先生が。」

「入院ってどのくらいなんでしょう?」

「まずは一週間は見てもらった方がいいわね。」

「一週間…」

「ちょっと電話してもいいですか?」

「うん、大丈夫よ。そうしたら後でまたどうするか教えてちょうだい。」


そう言い残し、看護師が処置室を出ると、里美はまず修二に連絡を入れた。


TEL

「修二くん、私。あのね、今、赤ちゃんの検診に来てるんだけど…体重の減りが急なのと脱水の症状があるから入院しようかって話になってて…」

「そうか。結構辛そうだし、そうした方がいいんじゃないか?一回ちゃんと身体を立て直してさ。荷物は?用意あるのか?」

「そんな入院するつもりでなんか来てないから、荷物は取りに一度帰るわ。」

「じゃぁ夕方になるが、後で届けに行くよ。」

「本当?助かるわ…お願い。」

「あぁ、また後でな。」


TEL

「あ、利佳子?忙しいところゴメン。今、検診に来てるんだけどさ、ちょっと入院することになって。」

「どうしたの?入院ってどのくらい?」

「一週間くらいみたい。私の悪阻、やっぱり重たい方なんだって。仕事休まなきゃならないんだけど、大丈夫…かな…」

「里美、そんなに具合悪かったの?まさか、悪阻の他にも何か他に病気でも?」

「いや、他は今の所は大丈夫みたいだけど…脱水と体重の減少が急だからって勧められたの。」

「そう、お大事にね。仕事の事は色々気になると思うけど、今は休む時期だと思って。元気になってまた戻ってきてちょうだい。」

「ありがとう。色々とごめん。」


部署のトップに立つ里美。

自分が不在の間、トラブルが発生しないことを願った。

自分の立場の代わりを担える者はいない事はないが、後輩への指導をもっと行っておくべきだったと反省した。



予定よりも数時間遅れ、面会時間終了ギリギリになって修二が荷物を届けにやって来た。

ナースステーションに立ち寄ると、人数が少ないことも影響しているのか看護師は修二の存在になかなか気づかない。


「すみません、今日入院した桃瀬里美の家族の者ですが。荷物を届けにきました。」

「あら、気づかなくてごめんなさいね。桃瀬さんね?えっと、部屋は二〇六よ。」

「ありがとうございます。」


まだ家族ではないが、いずれそうなるだろうし、お腹の子の父親なのは間違いないのだから何も問題はない。

部屋の前に到着し、番号を確認してノックをすると中からは里美の返事が聞こえた。


「おっ?起きてたか。元気か?」

「元気なわけないでしょ…」

「遅くなって悪かったな。服と荷物と…持ってきたぞ、ほら。」

「ありがとう、助かったわ。部屋、色々あさってないわよね?」

「大丈夫さ。歩美ちゃんに聞いて下着とか諸々用意させてもらったよ。」


里美の部屋に落ちていた大きめのナイロンバッグと紙袋にとりあえずの下着や衣類、タオルなど、リクエストされていた物を詰めてきた。

元々決して片付いているとは言えない里美の自室。

先ほど荷物を取りに行った際も相変わらずの状態だった。


「何か食べたい物とか…は、無いよな。」

「うん、今はね。」

「仕事には連絡入れたのか?」

「うん…利佳子にだけど。」

「何だって?」

「元気になってまた戻って来てって。」

「そうか。俺も利佳ちゃんに連絡入れておくかな。」

「ありがと、悪いわね。」


修二はベッドの縁に腰掛けると、横になって休んでいる里美の頭を撫で、そして静かに額にキスをした。


「どうしたのよ?」

「不思議だよなぁ。昔付き合っていたやつと、別れて何年も離れていたのに…こうしてまた一緒にいるんだ。

しかも、子どもまで身籠ってるんだ。こんな幸せなことってあるんだよな。」

「修二くん、幸せなの?」

「そりゃ、そうだろ。」

「知らなかった。」

「はぁ!?」


正直、里美は修二の本心がわからずにいた。

ずっと、付き合い始めた学生の頃から修二は子どもを望んでいたが、若さの勢いで行動にして互いの未来を潰してしまうことは避けたかった。

修二には修二の、里美には里美の将来があったのだ。


「桃瀬はどう思ってる?」

「何というか…昔の女と再会して、たまに食事して、セックスしてたら彼女が妊娠しちゃった…みたいな感じなのかなって。」

「何を言ってるんだ?子ども、作ろうって話してそうしてきたんだろ。最初にわかった時だって、俺は嬉しいって言ったはずだぞ。それに、俺は再会した時から桃瀬を俺の元に戻すって決めていた。あの時、付き合ってるやつはいないって言ってたからな。」


冷たい態度を示しながらも、嬉しくてたまらない里美だった。

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