彼女の覚悟

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職場で倒れた里美はそのまま救急病院へ搬送された。

長時間に渡る検査に付き添った修二は彼女の病を覚悟する。

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弱々しく、なんとか歩く里美の腰を支えて医務室へ向かう。

途中、嘔吐感に襲われ、壁によりかかったと思えばその場に座り込んでしまった。

早く横にさせてやりたい修二は、里美を背負い再び歩きだした。


「ほら、背負うから後ろ乗れ。」

「ごめん、ありがと。」

「 もう飲み過ぎだろ…仕事に持ち込むなよ。」


懐かしい昔の恋人の背中。

大きくて落ち着くのは、悔しいけど今も変わらなかった。

医務室に到着すると、里美はすぐにベッドへ横になり医師に状況を説明し、容態観察をする。


「連日の頭痛と視界の違和感…ですか。何か持病は?」

「特には…ないです。」


体温、血圧を測り、ここ数日の症状や倒れた時の状況を問診で確認すると、医師の判断により救急車を呼ぶことになった。


(はぁ?二日酔いで救急車呼ぶのか?)


修二は意外にも大事になってきたことで、里美には二日酔いとは別の何か異変が起きているのではと感じ始めていた。

思うことはあったが、修二は昨晩の事情を知る、そして里美に近い立場であることから自らも同伴することを了承した。


「頭痛と視界の違和感があるようですし、脳の異常も考えられますので念のために。」

「…桃瀬、大丈夫か?」

「…私ね、先週からずっと体調悪くて。

毎朝、薬飲んで抑えてたんだけど…お酒飲んでれば大丈夫かなって…最近忙しかったのもあってね。」

「体調悪そうなのはもっと前からだっただろうに。酒飲んでればとか、何でそういう発想になるんだよ…そんなんで飲んでたのか?昨日は全く気づかなかった。」


救急車に乗り込むと、横になっている里美を気にかけた。

里美はここ数週間の体調のことを思い出しているうちに病院へと到着した。

受付を済ませると、すぐに医師の診察へ入る。


「付き添いの方は、職場の方ですか?」

「あ、はい。一応、婚約者というか…」

「そうでしたか。ご帰宅か入院か、先生の診察が終わるまでお待ちいただけますか?」

「あぁ…はい、待ちます。」


看護師に返事をし、静かな廊下で一人待つ。

里美は修二と看護師とのやり取りを耳にし、自分は彼の婚約者なのだろうか、二人の間にそんな話は出ていないのだがそれでも良い気がしていた。

いくつかの検査へ向かうためか、ストレッチャーに乗せられた里美が目の前を通り過ぎ、するといくつかの点滴がつながっていた。



「桃瀬さーん、ちょっと動かないで頑張ってくださいねー」

「大きく機械が動きますよ、足、立ててそのままで。」


意識はなんとかあるものの、とにかく頭痛がひどく、目を閉じて外からの刺激はなるべくシャットアウトしたい気分だった。

頭痛と視界の異変で脳の検査をすると聞いていたが、最近の生理について問われ、生理不順であることや数週間前にも不正出血があったことを伝えると、婦人科の検査へも回ることになったのだ。

どこか大事になってきた雰囲気の中、この年齢で大病でも見つかったのだろうかと修二は不安に押し潰されそうになった。

二時間ほど経った頃だろうか、修二が医師に呼ばれ案内を受ける。

里美がいる部屋へ入ると、点滴に繋がれて眠っている。


「桃瀬さん、入院はしなくて大丈夫です。

貧血症状とか…まぁ色々あるので、お薬は処方しておきます。

暫くお酒も止めないといけないですね。

ご本人には詳しくお話ししていますので、この点滴が終われば御帰宅いただいて構いません。きちんと栄養とってくださいね。では、お大事に。」

「良かったな、桃瀬。」

「うん、ありがとう。色々検査受けちゃった。だいぶ待たせたみたいでごめん。」

「いや、利佳ちゃんには連絡入れておいたよ。とりあえず今日はこのまま帰って、明日も休めってさ。」


点滴を受けた里美はだいぶ顔色も良くなった。

ゆっくりと歩く、里美の腰に手を添えて支える。

何かを察した修二はこれ以上話しかけず、里美も黙ったままだった。


「うん、…あのさ、修二くん?」

「ん?」

「…えっとね…家、寄れる?」

「あぁ。それより、俺もお前も会社に車置きっぱなしだろ?タクシーで会社に戻ろう。そこから俺の運転でマンションまで送るから。」

「うん、ありがとう…」


病院のホールでタクシーを呼び、会社の駐車場まで戻るとそのまま修二の車へ移る。

何も言わずとも当然のように助手席をリクライニングシートにすると里美を寝かせ、修二はクルマを走らせた。



マンションに到着すると、せめてものお礼にとコーヒーを入れ始める里美。


「まて桃瀬、コーヒーはいらないぞ。」

「…おいおい、足元フラついてるじゃないか。まだ頭痛があるなら横になってろ。」


足元がフラつく里美を見て、修二は飲み物の用意を引き継いだ。

冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを二つのカップに注ぐと、お互いダイニングのイスに並んで座った。


「あの…ね、さっき病院でね、点滴を受けたでしょ。貧血と栄養失調、あとちょっと胃が荒れてるって。」

「栄養失調!?そんなに仕事忙しかったか?酒ばっかり飲んでたのか?」

「……」


黙り込む里美の様子に、嫌な予感は的中したのたと悟った。

この時代に栄養失調?と驚く修二だが、里美の様子がいつもと違うのは明らかだ。

修二は予想通り何かしらの病が見つかったのだと悟った。

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