第10話 Serenade(10)
津村は
萌香が自分の娘であるという確信を得たことで
胸がいっぱいになって彼女をジッと見つめてしまって言葉が出なかった。
「・・・?」
萌香はその彼の様子がまた不安になった。
「ご、ごめんなさい。 いえ、大した用ではなかったのですが。 パーティーの概要が早く上がったので。 先にお持ちしようと・・」
我に返った津村は封筒を萌香に手渡した。
「あ・・すみません。 わざわざ・・」
それを手にした後も
津村は萌香をジッと見つめてしまった。
「あのっ・・」
その視線に耐えきれなくなった萌香は思い切って顔を上げた。
「・・津村社長とは。 どこかでお会いしましたか、」
勇気を出して訊いてみた。
「え・・」
彼女からその質問が出るとは思わなかったので、彼は言葉に詰まってしまった。
本当に紳士で。
育ちの良さがにじみ出てくるようなこの男性が
まさか自分を『買う』ような人間とは思いたくなかったが。
萌香はどうしても京都での自分を知る人間を警戒してしまう。
これから仕事上でも斯波と関わるであろうこの人の正体がどうしても気になった。
「・・志藤さんから、何も聞いてらっしゃらないですか、」
津村の言葉が意外なものだった。
「え・・」
彼女が何も知らないと見ると、
「いえ・・ぼくは。 『あなた』を知っているわけではありません。」
津村は間違ってはいないが、よくわからない答えをしてしまった。
「どういう、ことですか。」
萌香はもう止まらなかった。
津村は彼女をまっすぐと見た。
「ぼくは。 あなたのお母さんを・・知っています。」
萌香は大きな目をさらに見開いた。
「ああ、ごめんごめん。 なんや遅くなって。 栗栖はもう帰ってもええで、」
志藤は7時ごろ外出から戻った。
萌香はデスクで何をしているわけでもなくうつむいたままだった。
「栗栖・・?」
彼女の異変に気付いた志藤は顔を覗き込んだ。
「さっき。 津村社長がお見えになりました・・」
萌香はゆっくりと顔を上げた。
「え・・」
ドキンとした。
「・・すみません。 志藤取締役まで巻き込んでしまって、」
萌香は震える声で言った。
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