第4話 Serenade(4)
中学生の頃から
大人相手に援交を繰り返した。
自分の身体だけが目当ての汚らしい大人たちの顔なんか
いちいち思い出すのもゾッとして。
覚えているわけがない。
とりあえずお金のありそうなおじさまたちをカモにして、おねだりしてさらにお金をせびったり。
そういう中にあの人がいなかったか、と言ったら
全くありえない話ではなく。
萌香はシャワーを浴びながら
身体の芯がゾッとした。
そんな偶然、絶対にありえない。
あの自分の汚れた過去を知る人と出会ってしまうだなんてこと・・・・
でも。
あの頃の自分のことは
かなぐり捨ててしまいたいけれど
やはり自分の人生はそこに繋がる。
「え・・社長に会ったんか?」
志藤は家に戻った後、すぐに父に電話を入れた。
「うん。 で・・津村社長って、どういう人???」
とりあえずさぐりを入れた。
「どういうって。 まあ、業界では有名な人やで。 先代の社長が10年前に亡くなってから、まだ若くして社長になったけど、老舗に胡坐をかいてはいけないと社長自らが身を粉にして営業をしたり。 東京進出も古い体質から抜け出さなくてはならないと思ってのことらしいし。 それでもほんまにウチみたいなちっさな店のモンにも丁寧に挨拶してくれてな。 人間的にデキた人や、」
父は津村を褒めちぎった。
「でも、奥さんを4年前に亡くされて。 子供さんもおらんようで。 周りは跡取りを心配してるみたいやけど、」
「・・そうか。」
志藤は仕事のことよりも津村が萌香の過去を知る人物なのではないか、とそちらの方が気になって
何だか胸騒ぎがした。
『椿屋』が北都フィルのスポンサーになるための審査は
全く問題なくすんなりと通った。
具体的なパーティーの日にちと真尋のスケジュールを照らし合わせたりの仕事は事業部に任せたが
志藤はどうにもこうにも津村のことが気になって仕方がなかった。
あれから
なんとなく萌香が沈んでいるようで。
彼女も同じ心配をしているのではないか、と感じていた。
そんなとき。
津村から突然志藤に電話があった。
夜、少し時間を空けて欲しいとのことだった。
そして
「正直。 仕事の話ではなく、プライベートで。 ですから・・志藤さんおひとりでいらしてください、」
津村はそう付け加えるのを忘れなかった。
それは
萌香を連れてこないで欲しい、と言うようにも聞こえた。
少し心臓の鼓動が速くなった。
この前はノースキャピタルで接待をしたが、今日は津村がお膳立てをした銀座の懐石料理屋だった。
料亭という敷居の高いところではなく、個室ではあったが
あまり堅苦しい店ではなかった。
「すみません。 お呼びたてして、」
そう微笑む津村は
父が話していたそのままの人柄を現していた。
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