第3話 Serenade(3)
音楽好きの津村とは話が弾んで、ついつい長くなってしまった。
「栗栖、時間大丈夫か? 翔、どないしてんの。」
話が途切れた時に志藤が振ると
「今日は彼が7時には上がれるっていうので。迎えに行ってもらいました、」
「そっか。 ならええけど、」
「お子さん・・ですか。」
津村はその会話に入って来た。
「はい。 仕事の間は預かっていただいているので・・」
萌香はニッコリ笑った。
「子供がいらっしゃるようには思えなかったな・・。」
津村はやっぱり萌香を何か含みがあるような目で見ていた。
「いえいえ。 そんなに若くもありませんし、」
萌香が軽くそう言うと
「・・おいくつですか、」
唐突に訊かれ
「えっ・・」
萌香は戸惑った。
「あっ・・すみません。 お若く見えたものですから。 女性に年を聞くなんて、」
津村は苦笑いをした。
「別に。 年なんか気にしていませんし。 もうすぐ32になります。」
萌香が笑顔で答えると
「32・・。」
彼女の年を興味本位で知りたい、といったような表情ではなかった。
確かめるように小さな声でつぶやくようにそう言った。
とりあえずこの日は概要だけで
仕事に関係のない話が多いまま、津村とはホテルの前で別れた。
「・・あの人。」
志藤は津村の乗ったタクシーを見送りながらポツリと言った。
「え?」
「栗栖のこと。 知ってはる人ちゃうんかな、」
そして萌香に向き直った。
「えっ・・」
萌香はドキンとした。
「覚え、ない?」
「いいえ・・」
萌香はドキドキしながら否定したものの。
彼女はすぐに悪い予感に走ってしまった。
志藤も彼女の京都時代は
いいことなんかひとつもなかったことはわかっていたので
もし、その頃の萌香を知る人物であったら
ひょっとしたらロクでもない知り合いであった可能性があるんじゃないか、と思い始めていた。
「おかえり。 話、どうだった?」
斯波は翔を風呂にも入れてくれたようで、風呂上がりのお茶を飲ませてやっているところだった。
「あ・・うん。 まだ具体的には、」
萌香はなんだか津村のことが気になって口が重かった。
「『椿屋』ってこっちでも有名だもんな。 今度初めて京都以外に支店を出すってその業界でも話題になってるらしい。 やっぱりヤリ手っぽい人なの?」
そうとも知らずに斯波はまだその話題を振ってくる。
「・・腰の低い、紳士的な人やった。 ・・あたしもお風呂に入ってくる、」
萌香は早く話を終わらせたくて、部屋に入ってしまった。
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