審査発表とトラブル
自分達の場所に戻ってきて審査を受ける準備をする。
倍速魔法袋のおかげでリイゴのシードルはいい感じに発酵し熟成出来ている。
クリスタルガラスと名づけた容器は綺麗な漆黒の色をしてドラゴンの装飾と馴染んでいる。
あとは1つの容器で回し飲みしてもらうことにしよう。
ガーディアンアーマーは静かに佇んでいる。
⋯⋯審査員に鑑定職がいないといいんだがな。
⋯⋯無理かな。
周りの人も酒と聞いて反応を見ようと周囲に沢山いるな。
「審査となるとなんだか緊張してきました」
「まあ取って喰われるわけではないし、大丈夫だろ。さてと準備も出来たし、あとは審査員たちが来るのを待つのみだな」
あまりの天気のよさにベリルとルシファーは昼寝をしている。
あれだけ変な団体の作品が多かったんだ。緊張などなくなるもんだ。審査員も変な奴等だと困るけど。
10人の審査員が前の審査を終えてこちらに歩いてきた。
金髪のおっさんと銀髪の腰の曲がったじいさん、
商人らしき人の背の高さの大中小の3人に角のはえたスーツの女性、身なりの整ったキリッとした老人、ベレー帽を被っている若い狐の獣人、
ひげ面の太った男と胸当てに鎖かたびらをまとっている冒険者風の若い男達が賑やかに喋っている。
「さあここの作品はどうかな」
「今回は酒もあるらしい⋯⋯変なものに当たってしまわなければいいんだが」
「ここの作品は2作品か⋯⋯鎧はどんなものかな」
「工房ギルド支部のドラムスのお墨付きらしい」
「2週間前に登録されたばかりと聞いたぞ」
「なんだ~それじゃあ素人か⋯⋯あまり期待できんの~」
「商売になりそうならありなんですがね」
「⋯⋯」
「酒も2週間で作るとは⋯⋯流石に無理があるな」
「もうつくぞい」
こちらを見つけて金髪のおっさんが話しかけてきた。
「エントリーナンバー9 チーム『夕星ゆうづつ』の如月夏樹だったな。
それではお前達の作品を見せて貰おうか。
酒は飲めるんだったな。しかし作品が2作品あっても評価は2つで1つとなる。評価は甘くはならないからな」
「ええまあ⋯⋯しかし酒は少量ですので回し飲みとなりますよ。鎧はそちらにあるものです。酒はそこの中くらいの容器と瓶2つで作っています」
瓶の蓋を開け1つの容器を器がわりにする。味は前日に確かめておいた。
「見たことのない形をした容器だな」
キリッとした老人がタンクを調べている。
「この瓶、綺麗な色と装飾がいいわ」
角のはえたスーツの女性が眺めながらうっとりしている。
「そんなバカな!!2週間でこんな味が出せるのか!?」
「これがリイゴの酒だと旨すぎる⋯⋯」
「芳醇な香りがたまらない⋯⋯早く回してくれ!」
商人らしき大中小の3人は味を確かめて驚いているようだ。
「なんだこの鎧は!?プレートメイルなのに、ステータス向上がすごい!」
「こんな良い作りの鎧は久しく見てないぞ!」
「プレートメイルとは思えん作りだ⋯⋯どうやったらこんな作りかたが出来るようにになるんだ」
冒険者風の男と狐の獣人とひげ面の太った男は鎧に食い付いている。
「瓶には『劣化耐性』、『耐熱性』、『冷耐性』、『衝撃耐性』で鎧は『形状記憶』に『守護者の意思』? 『火属性吸収』と『衝撃耐性』じゃと?なんじゃこの性能は⋯⋯」
わなわなと銀髪のじいさんが呟いている。⋯⋯あのじいさん<鑑定師>か。
「「「なにっ?」」」それが聞こえた他の審査員も集まってきた。
しばらくああでもない。こーでもないと談合が始まった。
酒はまわされながら少しづつ飲まれている。渡した分全部飲むつもりか?
ニコニコしながら背の大きな商人の男が近づいてきて話しかけてきた。
「こちらのリイゴでてきた酒は量産は可能なのですか?あとは容器も大きくならないのですか?」
「今回は買っていたリイゴの量に合わせて作ったものだからそれ以上はないぞ。そこまで量も買えないし、量産とはいかないな。まあタンクは大きくすることは可能だ」
背の大きな商人は考えて問い直す。
「材料が揃えば量産はできるのですね?」
「まあそうなるな」
「おい!抜け駆けするんじゃない!ずるいぞ!」
他の2人の商人が詰めよってくる。
鎧を見ていたじいさんたちもこっちにきて質問してきた。
「あの瓶と鎧の素材は工房ギルドの鉱山で取れた物なのか?」
「ああ、鉱石は鉱山で取れたものだが他にも朱のダンジョンで取ってきた素材もあるな」
「ふむ⋯⋯あれだけの付加効果とステータス向上では技術も並ならぬ苦労があるだろうが技術系の職業なのか?」
「しがないフリーだ。助手は魔導師だしな。」
じいさんはしばらく黙ってしまった。
続いて冒険者風の男が口を開く。
「何にせよ素晴らしい鎧だ。大会終了時に譲ってほしいくらいだよ」
「あいにくまだ売るつもりないぞ。それに偶然が重なったし、同じものができそうにないんでな」
それを聞いていた審査員たちががっかりしている
「なんと」
「そんなっ!」
「くぅ⋯⋯」
そして今度はヒソヒソとまた話始めた。
「しかしこれだけの付加効果がついたものは⋯⋯」
「これも調べればすごいことに⋯⋯」
「ここは譲れんのう~」
「面白いですね。これは帰ってからが楽しみです」
「ふん⋯⋯気に入らねぇ」
名残惜しそうに審査員たちは審査を終えて場所を離れていった。
◇◆◇◆◇◆
「それでは集計が終わり次第、開票をおこなう。なお投票数は明かされない!総合の順位と入賞作かどうかを発表する!」
司会進行をおこなっている金髪のおっさんが声を大きく上げている。
「いよいよですね!沢山質問とかされてましたし、期待できそうですね」
「よく寝たのだ~」
「ギャルル~♪」
「ああ。とりあえず自分達の分を確保しておいてよかった。もうすこしで酒がなくなるところだったぞ」
ジークドラムスとジュデイがこちらにやってきた。
「がははっ!!審査員の驚いた顔が忘れられんな!今でも笑いがとまらんわい」
「予想以上に掻き回してくれたみたいだね。これなら期待出来そうだね」
「しかし本部の作品があんなんで大丈夫か?ひどい有り様だったぞ」
「私もそう思います。私が見ても素人に毛が生えたような気がします」
「あんな作品では何も斬れないのだ」
ジークドラムスがため息を混ぜ、一息おいて言葉を口にする。
「この大会は最近は新人潰しの集まりで酷いのしか集まらないんでな。うちの弟子たちも材料が揃わなくて困ってたところだった。しかし、今回はそれも覆せそうでな、鉱山でもピッケルが仕組まれてそうだったと聞いて確信に変わったぜ」
「本部の奴等もグルってことか」
ジュデイが頷きながら指でジェスチャーしながら合図を送った。
「今頃偵察を行ってる奴が本部のチームの所に戻っていってると思うよ!ちなみに審査員のひげ面の太った男が工房ギルド本部の役員なんだわ。あいつが来てから工房ギルド本部の体制が変わったんだけどね⋯⋯」
「それでは開票します!!」
開票の号令が響いた。さあこれから発表だ。
「第9位 強欲の壺作成のヘッジホッグ入賞ならず!」
「第8位 からくり人形作成のブードゥ入賞ならず!」
「第7位工房本部ギルドチーム 『スピリットシード』ブレストアーマー入賞ならず!」
「第6位 工房本部ギルドチーム『ランズエンド』『スパイラルゴールド』 フランベルジュ、魔道具 フラッシュライト 6位同着。入賞ならず!」
あの剣フランベルジュだったんだ⋯⋯『バッカス』のフランベルジュとは全然違うからわからなかった。
「第5位 戦乱の戦士像作成のドナルド・アントニオ 入賞ならず!」
「第4位工房ギルド支部 チーム『バッカス』 守りの腕輪 アルベルト 佳作!」
「第3位工房ギルド支部 チーム『バッカス』 フランベルジュ ロック 佳作!」
「第2位工房ギルド支部 チーム『バッカス』クレイモア ケイン 優秀作入賞!」
『バッカス』は1人づつ作品を出していたみたいだな。技術は高いのは知ってたが佳作、入賞をするとはやはりドワーフという種族の技術は高いのだろう。
「第1位 工房ギルド支部 チーム『夕星ゆうづつ』シードル、プレートメイルともに優秀作入賞!」
「当然の結果なのだ!」
「如月さま凄いです!」
周りがざわめき始めた⋯⋯
「俺の作品が優秀作じゃなくあいつらの作品が⋯⋯おい!あいつらを唆して作品をめちゃくちゃにしてやれ!」
すぐさま工房ギルド本部の場所から何人か飛び出し、各工房の作成者に話しかけている。
「あいつらが裏で小細工してたから私の作品が落とされたのね!!許さないわ!」
「僕の作品を馬鹿にしてただと!奥の手を使って懲らしめてやる!」
人形使いと彫刻が動いてこっちに向かってくる!
その後ろからは数名のごろつきがハンマーや剣を持って周りを取り囲んで、審査員を縛ったりしている。
ひげ面の太った男が大柄のおっさんと共にごろつきの間を縫って移動してきた。
「だから目立つなって忠告したのによう?」
大柄のおっさんがニヤニヤしながらごろつきたちを纏めている。
「本部より良いものを作られると困るんだよ。できの悪いピッケルでわざわざ掘れないようにしてるのに余計な事をしてくれたな。落盤させ、ジュエルフェアリーたちを活動させないようにしてたのに⋯⋯」
ひげ面の太った男が鉱山での落盤を企て、ジュエルフェアリーたちに被害を被らせていた張本人だったみたいだ。
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