第5話首が絞まる
「本当に何の心配もしなくていいんだよね?」
圭子は待ち合わせ場所である駅に現れると開口一番でその様な言葉を口にした。
「圭子は何がそんなに心配なの?」
質問を返すと圭子は顔面に怒りの表情を貼り付けて口を開く。
「柏崎姉妹が可愛くて美人で…尚且お嬢様で幼馴染なんだよ!?何なの?数え役満でも狙ってるの!?」
急に怒りを顕にした圭子は僕の知らない言葉を使う。
「数え…何?」
「今はそこじゃないの!転校初日のクラスの男子の反応見たでしょ!?みんな期待して興奮気味だった…つまりは男子ウケいいんでしょ!?心配になっても変じゃないと思わない!?」
「まぁ…そうだろうけど…僕には圭子がいるし」
「だから…!」
圭子は何かを言おうとして奥歯を噛みしめるような表情を浮かべる。
「もう!何でも無い!」
そう言うと圭子は僕を置いて学校へと向けて歩き出す。
その後ろを付いていくと彼女は振り返って口を開く。
「付いてこないで!」
圭子の怒りは頂上まで達したのか遂には僕の存在を否定するような言葉を口にする。
その言葉を耳にして僕は少なからずのショックを受けることとなる。
言われた通り圭子が通り過ぎてから僕は歩を進める。
珍しく一人で登校していると友人の男子生徒が茶々を入れてくる。
「見てたぞ〜珍しく喧嘩か〜」
「そんなんじゃないよ…」
何とも言えない言葉を口にすると僕も遅れて学校に到着するのであった。
「凛くん。この間、案内してもらっておいて恐縮なのですが…次の授業の理科室とはどちらでしょうか?」
午後の授業が始まる前の教室でカレンは一人でいる僕の席にやってくると笑顔を向けた。
「二階の…」
「口頭では分かりづらいので再度案内を頼んでもよろしいでしょうか」
その様子をクラスメートは少なからず目の端で捉えていただろう。
「カレンちゃん。私達が案内するから。中条には彼女がいるし…迷惑になると思うから…」
圭子が不機嫌なのを知っているであろう女子生徒が気を利かせてカレンに向けて口を開く。
「ありがとうございます。ですが初日に凛くんに案内して頂いたので本日も凛くんが良いのです。その方が記憶に残りやすいと思うので」
カレンは丁寧に断りの言葉を口にする。
「でも…」
女子生徒は圭子の様子を確認しつつカレンに向き合う。
「それに彼女のいる相手に話しかけてはいけないのですか?私が住んでいる世界ではその様なルールはないと思いますが…」
カレンはきっぱりと空気の読めない言葉を口にして惚けた表情を浮かべていた。
「もういいよ…。行こ」
圭子は教科書を手にすると女子生徒を引き連れてそのまま教室を出ていく。
残された僕は居心地悪く感じていると目の前のカレンはやけに笑顔だった。
「やっつけました♡」
なんて無邪気な表情で笑顔を向けてくるカレンを少しだけ怖いと思った。
「さぁ。私達も行きましょ?授業に遅れたら大変です」
カレンは僕の腕を引くとそのまま廊下に出る。
「懐かしいですね。昔はよく手を繋ぎました。何をやるにも私達は三人で過ごしましたね…すみません。凛くんはあまり覚えてないのでしたね」
「………」
カレンは僕の腕を引くとそのまま理科室まで歩いていく。
「あれ?覚えてるじゃん」
理科室まで案内することもなく彼女は順路を間違えずに目的地に到着する。
「はい♡だから…やっつけたんですよ?恋人と喧嘩中だと聞きました。これはチャンスだと思って嘘を言いました。愛する人は奪ってでも手に入れろ。というのが我が家の家訓です」
カレンは美しい笑顔を向けると悪びれる様子も見せなかった。
「そう…でもこれっきりね。圭子を心配させたくないから」
「心配になるということは彼女さんも私に劣っている自覚があるということでは?過剰な心配が原因で捨てられる前に私に乗り換えることが賢明な判断ですよ」
「そんなことは…」
「100人居たら99人は彼女さんではなく私を選ぶと思いますよ」
「じゃあ僕は残りの1人だよ。圭子の方が大事だよ」
「何故ですか?二人には何か特別な縁があるのですか?」
「………」
僕はそこで言葉に詰まってしまう。
丁度鳴った予鈴を合図に廊下での会話を終えて理科室に入っていくのであった。
「なんか元気ない感じ〜?」
バイト先で梶響は僕の様子を確認すると唐突に口を開く。
「絶賛彼女と喧嘩中です」
「へぇ。なんでまた?」
「女性関係で」
「え!?紅の問題が解決して順調にラブラブなんじゃないの!?」
「そうはいきませんでした…」
「なんでだよ〜それじゃあ紅が報われないだろ〜」
「………」
本日は言葉に詰まる様なことをよく言われる。
何も言い返す言葉も見つからずに僕は自分自身を呪った。
「女性関係って…紅みたいに面倒な女子に引っかかったの?」
「そうじゃないです。純粋に僕を彼女から奪おうとしています」
「どう違うの?」
「品野さんとは違ってそこに悪意がないんですよ」
「紅だって悪意はなかったと思うけど?」
「そうですかね…」
僕らは他愛のない会話を続けながら業務に従事するのであった。
バイトを終えて着替えを済ませるとスマホを手にする。
数件の通知が届いていて確認した。
「明日からすっぴんやめるから」
圭子の意味深なメッセージに僕はどう返事をするべきか悩むとOKというスタンプを押してやり過ごす。
「どうしろって言うんだ…」
問題は拡大していき僕の首は徐々に絞まっていく様な感覚を覚えながら帰路に就くのであった。
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