第4話新たなバイト仲間
昔のことをどれほど覚えているのか問われたら少しだけ首を傾げざるを得ない。
カレンのこともミレイのこともそれほど覚えてはいない。
ただ彼女らが幼い頃から音楽をやっていたことだけは、うろ覚え程度には記憶にあった。
「柏崎さんは昔のこと覚えているの?」
圭子に僕らが幼馴染であることを伝えるとその様な返事が来て僕はまたもや首を傾げた。
「わからないけど…確認もしてないし」
「きっと覚えてると思うな。なんか凛を見る目が…やっぱり何でも無い」
圭子は不機嫌そうに口を開くと最近では多くなった拗ねるような表情を浮かべる。
品野の問題が解決したところに新たな火種のようなものが現れて圭子の心境は穏やかなものではなかった。
「凛が心配ないって言うのであればそれを信じるしか無いし…」
「本当に心配ないよ」
そう言って不安を解消してあげたかったが彼女は終始不機嫌なままなのであった。
休日のバイトの日。
本日のシフトの相手は品野だった。
「マスターが新しいバイトを雇ったらしいよ。高校一年生だって。凛くんと同じ学校の生徒みたいだよ」
「そうなんですね。後輩ができるのか…」
何とも言えない複雑な心境に陥るがカレンではないことに少しの安堵を覚えた。
ここでもしもカレンとバイトまで一緒になったら圭子の機嫌は戻らないだろうと思った。
開店作業に入ろうとしたところで新しいバイトがバックヤードに現れる。
「本日からバイトとして働かせて頂きます。柏崎ミレイです。高校一年生ですが甘やかさずに仕事を教えて下さい」
そこに現れたのはカレンの妹のミレイだった。
僕の嫌な予感は少しだけ的に掠ってしまいカレンではなくミレイを呼び寄せてしまう。
「よろしくね。品野紅です。大学二年生です」
「はい。よろしくおねがいします」
ミレイは品野に元気よく挨拶すると僕に向き合う。
「凛先輩もよろしくお願いします」
「あ…ミレイちゃんは覚えてる感じ?」
「はい。よく覚えています。昔たくさん遊びましたよね」
「そうなんだ…僕は親に言われるまで覚えて無くて…ごめん」
「いいですよ。私達の記憶には鮮明に焼き付いているだけなので」
僕らの会話を耳にした品野は不思議そうに首を傾げた。
「二人は知り合い?」
「はい。同じ幼稚園でした。昔は私と姉とよく遊んだんですよ」
「そうなんだね。凛くん目当てでバイト先をここにしたの?」
「いえいえ。本当に偶然でした。今日ここに来るまで何も知らなくて…さっきはかなり驚きでした」
「そっか。バイト仲間は仲良いから早く馴染めるといいね」
「ありがとうございます。よろしくおねがいします」
ミレイは礼儀正しく挨拶をするとそこから品野にくっついて仕事を教わっていた。
それは品野とマスターの判断で僕が教えるよりも品野が教えるほうが問題が起こらないだろうという判断だった。
本日のロングシフトが終りを迎えるとバックヤードで着替えを済ませる。
「そう言えばお姉ちゃんが嬉しそうに話してくれましたよ」
ミレイは着替えを済ませると僕に向き合う。
「何を話してくれたの?」
「凛先輩と再会できた初日に学校案内までしてもらえてラッキーだったって」
「そうなんだ。あの日の日直はたまたま僕だったからね」
「それに以前と同じように優しくてかっこよかったとも言ってました。私もそう思います」
「………」
そこで言葉に詰まると僕はぎこちなく笑顔を浮かべるだけだった。
「また学校でもバイト先でもよろしくおねがいしますね。お先に失礼します」
ミレイは僕に挨拶をするとそのまま駐車場に向けて歩き出す。
迎えに来ていた車に乗り込んだミレイはそのまま何事もなくバイト先を後にするのであった。
帰宅して僕は圭子にメッセージを送る。
それを目にした圭子は不機嫌そうなキャラクターのスタンプだけで返事を終わらせる。
「まいったな…」
自室で独りごちると今後のことに思考を巡らせるのであった。
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