第3話学校案内と秘密
「それでここが音楽室で…」
と音楽室を紹介している自分を少しだけ不思議に思った。
何故、選択科目を聞きもせずに音楽だと決めつけたのだろうか。
彼女のお嬢様然とした容姿がそうさせているのかもしれない。
けれど…何処か違和感を覚えたのは確かなことだ。
「音楽室は広いんですね。今は部活中ですか?」
「そうだね。うちの吹奏楽部は結構有名で。大会で金賞を取るぐらいなんだ」
「そうなんですね…でも私はソロで十分ですから…」
「ソロ?」
「はい。何でも無いですよ。さぁ次の場所に案内してください」
僕は何かを忘れているような何かを思い出せそうな不可解な感情に駆られた。
過去を思い出すように小学校の頃から順を追って思い出しているのだが…。
柏崎カレンという女子に覚えはない。
けれど依然として何かが引っかかっていた。
喉の奥に小骨が…と言った具合に気になって仕方がなかった。
「柏崎さんは今まで何処で暮らしてたの?」
「海外です。それとカレンでいいですよ」
「じゃあカレンさんは今までにこの街で暮らしてたことはある?」
「………」
彼女はそこで一度黙り込む。
校内を一周したため教室に戻っていくとカレンはカバンを手にした。
「先程少しだけお話が聞こえました。この後アルバイトがあるんだとか。では私はここで失礼します」
カレンは何かを誤魔化すように足早に教室を抜けていくのであった。
急いでバイト先に向かうとエプロンを着用して店内に向かう。
本日のシフトの相手は梶響だった。
「涼子ちゃんも辞めて寂しくなるね〜」
「そうですね。新しいバイトの募集は掛けているんですかね?」
「掛けてるみたいだよ。凛くんは年下の方が良い?」
「なんでですか?」
「だって凛くんは年下とのほうが相性いいと思うから」
「そうですかね…」
「我儘言われる方が好きでしょ?恋人が拗ねた時とか上手く接することが出来るんじゃない?」
「買い被りですよ」
「そうかなぁ〜」
本日は客足の少ない店内で梶との世間話は続く。
「凛くんって一人っ子だったっけ?」
「そうですね。兄弟が欲しいと思ったことはありますね」
「一人っ子って面倒見いいじゃん?普段は一人だから友達とか恋人の世話を焼きたがるイメージ。凄くいいイメージだよ」
「なんですかそれ…梶さんの主観的意見でしょ」
「それも大事じゃん。自分を信じるってとても大事じゃない?」
「そうですけど。よく客観的に自分を見てみなよ。みたいな台詞耳にしますよね?他人の意見こそ大事ってことなんじゃないんですか?」
「違うよ。自分自身を客観的に見つめる必要があるってこと。まだ子供だなぁ〜」
「二つしか歳変わらないじゃないですか」
「そうだよ。でもその二年が大きいんだなぁ〜」
「上からですね…」
「涼子ちゃんが辞めちゃった寂しさを凛くんにぶつけてるだけだよぉ〜」
「梶さんだって子供じゃないですか…」
「まぁね〜」
適当な会話を続けて閉店時間がやってくると僕らはバックヤードに向かう。
着替えを済ませると店の外に出て帰路に就く。
帰宅すると珍しく母親が僕に声を掛けてくる。
「凛。良かったじゃない」
「何が?」
「ん?カレンちゃんとミレイちゃんが帰ってきてくれて」
「は?詳しく」
「だから。幼稚園で一緒だったでしょ。卒園してすぐに海外に行ったけど。また戻ってきたんだから前みたいに仲良くしなさいよ」
「まじかよ…」
そんな何とも言えない4文字が口から漏れると僕は自室に向かいベッドに倒れ込むのであった。
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