第16話夏休み最終日の問題

長いようで短かった夏休みは残すこと一日に迫っていた。

現在の状況を説明すると圭子と聖子と僕。

いつもの三人に加えて関川涼子の姿がここにはあった。

何があったかと言えば…。

「圭子!大変だよ!明日で夏休み終わるっていうのに宿題が全然終わってないんだよ!」

圭子の部屋で他愛のない会話を繰り返しながらゲームをして過ごしていると聖子はノックもせずに部屋にやってくる。

「知らないんだけど…」

聖子の焦る表情とは打って変わって圭子は呆れたような表情を浮かべている。

「宿題見せて!」

「学校違うじゃん。課題の内容も全然違うでしょ…」

「同じような問題が出ているかもしれないでしょ!良いから見せて!」

「自分でやる気はないの?」

「無い!」

「………」

僕と圭子は聖子の正直な言葉に呆れたように苦笑する。

「教えてあげるから自分でやりなよ。じゃないと進学する時に苦労するよ」

「正論やめて!今はそんなことよりもこの焦りをどうにかしたいの!」

「後悔すると思うけどな…。私と凛で教えるから頑張ろ?」

「………」

聖子は圭子の説得に屈したようで悲しそうな表情をして一つ頷いた。

「ってか二人は宿題終わってるの?」

「とっくにね」

「なんで!?殆ど遊んでたじゃん!」

「遊んでたけど…一時間は勉強の時間作ってたから。通話しながらお互いを監視しあって寝ないようにしたり…色々工夫して早めに終わらせたよ」

「そんな手があったのね…皆やってないと思ってた…」

聖子はガックリと項垂れると自分の残りの課題を机の上に広げた。

その量を目にして僕らは絶句する。

「一つも手を付けてないでしょ?」

それに頷く聖子に圭子は軽く頭を叩いて嘆息する。

「この量を一日でやるの無理かな?」

圭子は僕の判断を仰いできて少しだけ思考を巡らせる。

「ズルすれば…どうにか…」

本来宿題とは自らの手でやるから意味があるというものなのだが…。

夏休みの宿題をやってこなかっただけで聖子の成績が下がるのは避けたい。

「今回だけって約束だからね?来年からはちゃんと計画立ててやってよ?」

圭子は聖子に約束させると僕は助っ人に関川涼子を呼んだという状況だった。

「関川さんごめんね。妹が迷惑かけるね…」

「圭子ちゃん。大丈夫だよ。夏休み中も毎日勉強しているし、その延長で追加で勉強できるんだから私にとっても得だから」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど…他人の宿題をするなんて嫌じゃない?」

「うんん。他校の宿題やれる経験なんて滅多に無いから楽しみ。だから凛くんも呼んでくれたんだろうし」

「ありがとう。じゃあ聖子には私が教えながらやるね。凛と関川さんは難しそうなところ中心にやってもらっても良い?妹は全然勉強できないから…自力で解けなさそうだし」

僕はそこで頷くが関川は少しだけ首を傾げて言葉を口にする。

「良いよ。でも妹さんは夏休み明けの授業でついていけなくなるかもよ…」

「妹のことまで心配してくれてありがとう。でもそこは大丈夫。夏休み明けたら私が必死で叩き込むから」

「そっか。じゃあ早速始めよ」

ということで僕らは四人で聖子の宿題の手伝いをする羽目になるのであった。


全ての宿題が終わったのは21時頃だった。

僕と関川は急いで田丸家から出ると帰路に就く。

「急に呼んでごめん。圭子は聖子ちゃんに自力でやらせたがっていたんだ。けどあの量を見たら僕一人が手伝っても今日中に終わらないと思ったんだ。関川なら簡単に問題も解いてくれると思って…」

そこまで言い訳のような言葉を口にすると関川は掌を前に出して僕の言葉を制止する。

「さっきも言った通り他校の宿題をやれる機会なんて滅多に無いから。それに私が進学希望なの知ってるから呼んでくれたんでしょ?そこは全然怒ってないよ」

「そこは?」

妙な引っ掛かりを覚えて問い返すと関川は残念そうな表情を浮かべて嘆息する。

「もう二人ってそういう関係でしょ?」

「………」

関川の言いたい言葉が理解できて僕は言葉に詰まってしまう。

「なんでそう思ったの?」

「距離が近いから。お互いに触れてもほぼ無反応だったし。お互いの身体に触ったことがある証拠でしょ?」

「そう…だね」

「どこまでいったの?」

「まぁ…最後までだよ」

正直に答えると関川は困ったような表情を浮かべる。

「品野さんにどんな顔して会えばいいかわからなくなっちゃったじゃん…」

「いや…別に普段どおりで良いんじゃない?そもそも品野さんはもう関係ないんだし」

「関係ないは酷いよ。一応元カノでしょ?同じバイト先だし、これからだって友達としては関係が続くんだよ?」

「そんな事言われてもな…それに関川だって品野さんの面倒な性格わかるだろ?」

「そうかもしれないけど…それでも年下の立場に甘んじて品野さんに甘えていたのは凛くんでしょ?品野さんだって疲れたから一度別れを切り出したんじゃないの?それなのに簡単に忘れて恋人作るなんて…ちょっと酷いと思うな」

関川の今までうちに秘めていた思いを耳にして僕は少なからず衝撃を受ける。

「僕って品野さんに甘えてた…?」

「そう思うけど?品野さんは大学生で私達よりも大人なんだよ?合わせて子供っぽく接してくれてるだけだと思うな。面倒な性格してるのは梶さんから聞いて知ってるけど」

「そうか…。言いにくいこと正直に伝えてくれてありがとう。助かったわ」

「そんな…私もきつい言い方してごめん」

「気にしないで。また明日学校で」

僕らは会話を終えると各々の自宅に帰っていく。

帰宅した僕はスマホを手にする。

「話したいことがあるので水曜日に時間もらえますか?」

件の元カノ品野紅にメッセージを送ると僕は風呂に入り早めにベッドに潜るのであった。

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