第8話もうすぐ夏休み

「テストどうだった?」

テスト期間を終えた帰りのHRを前に圭子は僕の席までやってくる。

「うん。一緒に勉強したおかげで今までにないぐらいには出来たよ」

「ホント?それならよかった♡」

圭子はきれいな笑顔を僕に向けるとスマホを取り出してスケジュールのアプリを開いた。

「大体バイトって何曜日なの?」

「まだシフトが出てないから決まってないけど…水曜日は店休日だから必ず休みだよ」

「水曜日ね。じゃあそこは絶対に空けておくね」

それに頷くと彼女は何かを思案して悩んでいるような表情を浮かべる。

「私もバイト始めようかな〜」

「良いんじゃない?何処でデートするにもいくらかお金は必要だし」

「それもそうだし、記念日とか誕生日にプレゼント贈りたいし…」

「プレゼントか…気持ちだけで十分だよ。自分のためにお金は使って」

遠慮がちな言葉を投げかけると圭子は唇を尖らせて拗ねたような表情を浮かべる。

「私からの贈り物はいらない?」

「そういうわけじゃないけど。贈り物を義務化する必要はないと思うな。どうしても贈りたくなった時に贈れば良いんじゃないかな」

「どうしてもって?」

「うーん…感謝とか気持ちが溢れてどうしようもなくなったときとか」

「なるほどね。じゃあバイトの件は保留にしておく。今年は凛といっぱい遊びたいから♡」

「そうして。デートの時は出来るだけ僕が出すから」

「ありがと♡」

そんな会話を繰り広げていると帰りのHRの時間がやってきて担任は素早く連絡事項を伝ええると放課後はやってくるのであった。


本日もバイトのため圭子とは学校で別れて一度帰宅してから着替えを済ませる。

原付きに跨るとそのままバイト先に向かい主婦の二人とシフトを交代して仕事に勤しむ。

今日のパートナーは梶響だった。

彼女は大学生で高校生の頃からここでバイトをしている。

僕らよりも二つ年上の先輩で頼りになる人だ。

「涼子から聞いたよ。彼女出来たんだって?紅も完全に失恋したね〜」

「関川も口が軽いですね…バイト先にトラブルは持ち込まないようにしていたんですが…」

「別にトラブルじゃないでしょ。紅の性格が面倒なだけで凛くんは何も悪くないと思うよ」

「やっぱり品野さんって面倒な性格していますかね…」

僕の言葉に梶は大きく頷いて肯定をする。

「面倒でしょ。自分から告白して自分から振っておいて引きずってるって…意味わからん」

「確かに何がしたいのか謎ですけど…品野さんの中では何かしら明確な答えがあるんですかね…」

「さぁね。私にはわからない。引きずるぐらいないなら意地でも離さなければ良かったんだよ。喧嘩別れってわけじゃないんでしょ?」

「はい。ある日突然振られたって感じですね」

「まぁ意味分かんなくて面倒なやつだけど悪いやつじゃないからね。凛くんを弄ぼうとしたわけじゃないと思うし大目に見てあげてよ」

それに数回頷くと僕らはそこから20時の閉店まで業務に従事するのであった。


バイトを終えて原付きにキーを差し込んだ所で見覚えのある軽自動車が僕の前で止まった。

「話したいから付いてきて」

その軽自動車の持ち主、品野紅はそれだけ告げると車を発進させる。

付いていくべきかいかないべきか少しの逡巡の末、僕は仕方なくその車の後を追うのであった。

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