第5話テスト

土曜日がやってくるのは思いの外にも早く感じた。

目覚めると身支度を整えて家を出る。

家を出て改めて僕の心はざわついていた。

恋人の家に行くというのは初めての経験なので、これから起こるであろう出来事に胸を高鳴らせた。

昨日、圭子に伝えられた住所に向かうとそこは一般家庭で住むようなマンションだった。

202号室のチャイムを押すと彼女はすぐに僕を家の中に招いた。

「いらっしゃい」

彼女はバッチリとメイクをしていて快く僕を家の中に招いた。

「おはよう。何ていうか今日は少し雰囲気が違うね」

何気ない言葉ではあったのだが思った言葉を口にすると彼女は頬骨をピクッと動かした後に軽く微笑んだ。

「そう?今日はメイクしてるからでしょ…」

視線をそらす彼女に違和感を覚えるが家の中に案内されて話は有耶無耶のまま流れていった。

「何か言ってはいけないこと言ったかな?」

伺うように問いかけても彼女は首を左右に振るだけで何も答えてはくれない。

やはり少しの違和感を拭えることが出来ずに彼女の顔をまじまじと凝視する。

「今日…メイク失敗したかも…」

そう言われて納得いくようないかないような未だに違和感を拭えずに居ると彼女は嘆息する。

「恋人を疑うの?」

その言葉を耳にしても何故か僕はいつものような寒気を覚えることはなかった。

恐怖のような圧力を感じることはない。

それが僕の違和感を強くさせていた。

「やっぱり圭子じゃないでしょ?」

何故そんな言葉が口をついたのかは理解できない。

でも圭子ではない。

そんな感覚を拭えずに居るとその答えを口にした。

彼女ははぁと嘆息すると機嫌を損ねたのか自室に戻っていく。

そしてしばらくすると…。

「え…?圭子が二人?」

リビングに顔を出した同じ顔をした二人の姿を目にして僕は馬鹿な言葉を口にする。

「ふふっ♡双子なの。さっきまでいたのは妹の聖子しょうこ

「やっぱりそうだったんだ…でも意地悪しないでよ」

「恋人をちゃんと見抜けるかテストしちゃった♡」

「えぇー…やめてよ…」

呆れたように嘆息すると双子の妹である聖子が口を開く。

「私とも仲良くしよ?♡」

などと戯言のような言葉を口にする聖子に呆れていると彼女は驚きの言葉を口にする。

「実は何回か圭子とすり替わって学校に行ったこともあるんだよ?その時に凛のことも見てたんだ♡私も好きになってたんだよ?それは知らなかった?」

「本当に言ってる?」

それに聖子は頷くと笑顔で僕に向き合った。

「圭子もたまには代わってくれるって言うし♡私とも今度外でデートしようね?♡」

隣で妹の様子を伺っていた圭子も頷いていた。

「聖子はしつこいから…悪いけどたまには相手してあげて。聖子だったら許してあげるから」

恋人からのお許しを得ると僕は頷いて応えた。

「じゃあ今日は三人で過ごそ♡」

聖子の言葉を合図に僕らはそこから恋人の家で仲良く過ごすのであった。

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