第3話バイト先
初デートの翌日。
一緒に登校するために駅で圭子のことを待っていると彼女は昨日とは違い地味な姿で現れた。
「おはよ。昨日は楽しかったね」
何度目かの彼女のすっぴんを目にして少しずつ目が慣れてくる。
「おはよう。昨日はありがとうね。今週もがんばろう〜」
気休め程度に口を開くと彼女は適当に頷いた。
「凛と一緒だから学校も楽しいよ」
「そう?お世辞でも嬉しいよ。ありがとう」
僕らは世間話を繰り広げながら徒歩で学校へと向かうのであった。
「おはよう。中条って田丸さんと付き合ったんだ?」
教室に到着すると友人の男子生徒に声を掛けられて一つ頷いた。
「それにしてもお前の趣味か?彼女にいつもすっぴんで居させるなんて…」
彼は少し小声で僕に耳打ちすると肩を軽く小突いた。
「そんなんじゃないよ」
「じゃあ何で田丸さんは最近地味めな格好で登校するようになったんだ?せっかく目の保養になっていたのに…」
「知らないよ。本人に聞いてみろよ」
「それは無理、話しかけるのハードル高い」
「なんだそれ」
適当に会話を済ませると着席して朝のHRの時間を待つ。
「凛く〜ん」
教室の隅の方から女子生徒の声が聞こえてきて、そちらに目を向ける。
その女子生徒は僕の席まで歩いてやってくると悪気なく口を開く。
「おはよ〜。今日のシフト一緒だからよろしくね〜」
彼女とは同じバイト先の同僚である。
「そうなんだ。今日は梶さんじゃなかったけ?シフト変更したの?」
「そうなの。響さん、大学の課題が終わらないみたいで…昨日電話が掛かってきたの」
「忙しい人だもんな。分かった。じゃあよろしく」
「うん。また放課後にね」
彼女の名前は
たまたま同じバイト先になった同級生である。
僕が一年生の春頃から先にバイトを始めていたのだが、彼女は夏休みが始まる辺りから入ってきたバイトである。
先程、少しだけ出てきた
バイト仲間は普通に仲が良く、店休日に集まって遊びに行ったこともある。
ただ僕以外は女子なのでこれからは一緒に遊べないだろうと感じていると朝のHRの予鈴が鳴り響いた。
「関川さんとどういう関係?彼女には内緒の関係なの?」
ポケットの中のスマホが震えると画面にはその様な文章が表示されていた。
「違うよ。バイト仲間。たまたま一緒のバイト先なだけだよ」
正直な事実を打ち込むと担任教師が教室に姿を現した。
「それじゃあHRを始めます。来栖が風邪で休みと連絡がありましたが…後は全員居ますね。連絡事項ですが来週からテスト期間に入ります。テスト期間中は部活動は完全に休みになります。それと職員室には無断で入れなくなりますので用のある生徒はノックをして廊下で待つように。それではHRを終わります」
担任はそれだけ告げると一限目の資料を持って次の教室に向かうのであった。
本日も無事に放課後を迎えるとバイト先に急ぐ。
個人経営の喫茶店だが中々に繁盛しているお店だった。
バイトのウエイターは常に二人。
マスターがコーヒーを入れてバイトがオーダーを取りに行き食器洗いもバイトの仕事だった。
後はコーヒー豆の補充や食品の補充を倉庫からする仕事など。
殆どの雑用はバイトの仕事だった。
しかしながら時給がそこそこ高いので僕らは何も文句は無かった。
学生バイトが4人と主婦が2人。
学生がバイトに入れない昼間は主婦の2人で仕事をこなしている。
僕らはシフト制で入れる時に入るような感じだった。
「圭子ちゃんと付き合ったってホント?」
仕事が一段落ついた所で関川は世間話程度に口を開く。
「まぁ。告白して了承してもらった」
「ふぅ〜ん。凄いね。バイト先で恋人居るの凛くんだけじゃん。これから遊べなくなると思うと少し寂しいな」
「そうだな…」
適当に返事をすると客足の引いていった店内で世間話は続く。
「でも良いの?」
関川は唐突に疑問を僕にぶつけてくる。
それに首を傾げて答えると彼女は少しだけ渋い顔をして言った。
「品野さんの話。圭子ちゃんにしてる?」
「する必要あるかな?ただの元カノってだけの話だし…」
「でも今も同じバイト先だよ。品野さんは引きずっているみたいだし」
「それは…僕の責任じゃないし…」
「2人がそれで良いなら良いんだけど」
関川の2人という言葉は誰と誰を指しているのか…。
それは分からなかったが僕は適当に頷いて誤魔化すだけなのであった。
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