ep5 直子のそれから

 今日も少し元気があるから、聞いてほしいの。


 昨日話した通り、私たちが劣等家系の生まれだと分かってからは、本当に最悪だった。父は店の営業時間を短くして、深夜は働きに出るようになった。母もパートに出たけど、どちらも長くは続かなかった。自分で店をやるのと違って、外で働くには二人はできる仕事がなさすぎたのよ。結局、私が魔法を使えない子どものための支援学校に転校することになったタイミングで、私たちはこの町を出たの。父がツテで何とか仕事を見つけてきて生活はできるようになったけど、母は家に籠って何もしなくなった。家事もせずに、ただ壁を見つめるだけ。そんな時だったわ。父と母が離婚したのは。


「お父さんはね、紙の魔法を使ってしまったのよ。だから、魔法の使えないお母さんと直子とはもう暮らせないのよ」

 母は私にそう説明をしたけど、私はそんな嘘で慰められるほど子どもじゃなかった。父が通貨偽造罪で逮捕されたニュースは、嫌でも耳に入って来たわ。紙幣の魔法は、禁忌の魔法なのよ。もちろん、父がしてたのは雑用程度の仕事なんでしょうけど。きっと、仲間に足切りで売られたのね。


 母は結局、最も魔法の必要ない職に就いて私を育ててくれたわ。魔法が介在しない方がいいと言われてる職業よ。想像つくでしょう? もう四十にもなる母が、高いヒールに薄いワンピースを着て帰ってくる娘の気持ちが分かる? 寝巻きに着替える母の背中に歯形がついてるのだって見たことあるわ。最後にはお尻を痛めて座布団がないと座れなくなった。どんな乱暴なことをされて、どんな屈辱的なことを強要されたのか、あなたに想像つく? 愛のある行為しか、あなたしたことないでしょう。いいのよ隠さなくて。そのためにあなたがいるんだもの。

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