蜂と蝶
半月に一度の『
「お前の
剃り込みの短髪と鋭い眼光の、威圧的な
「あー、いや~……あいつホントまだ初心者だからさ。
あたしか
「あたしはやだ。アイツつまんないもん」
フードを被った少女の、
「じゃ、あたしか~……はぁ」
心美は今日もため息をつく。
気分が乗らない。乗るわけがない。
あれからどうしているだろうか。CDを
そう思っていた
自分の遠回しな教え方が間違っていたせいで、
もう負けないなどと思いあがっているのかもしれない。
なら、教えてやるべきはちゃんとした敗北だ。
友達だからこそ、
でも、友達にキツいこと言いたくないのも当たり前だ。その理屈と感情は矛盾しない。
なんとなく重苦しくなった控室の空気を、
「私がいくよ」
「はぁ!? いや、チャンピオンから行くとかアリなの!!?」
「ギャハハハ! 自由かよお前!」
「
「ちゃんといい感じに、きれいに殺すから安心して」
「ギャハハヒヒヒ、イ”ーッヒヒヒヒヒ!」
あくまで
dossが過呼吸ぎみに笑う。
「ざまあみろ女媧。ボコられちまえ」
「さ、再起不能にすんなよな~~」
「ハツ
緊張がほぐれた四天王たちの様子に、宝良はくすりと微笑んだ。
前回のようなラップで
王者Jewelが、
※※※
『さあ、本日最後の
司会がそういって場を
この熱狂が、本当は自分に
にわかに宿った胸の
準備不足なのは分かっていた。差は全然埋まっていない。
あたしはまだ何も、誇れるものを見つけられていない。
けれども感情の激流が、目の前のノートに書き殴るだけでは収まりきらなくなったとき、
あたしの魂は自然と、このステージめがけて這いだしていた。
目の前に現れたのは、予想外の相手だった。
飾り気のない
観衆が一瞬どよめいた後、より大きなうねりが生まれ、床から天井までをも揺らす。
因縁の相手に王者が
そうではない。
よほどあたしをぶっ殺したくてたまらないのだろう。
だからなんだ。そんなの知ったことか。
お前らなんかよりもあたしの方が、ずっとあたしに怒っている。
8小節×4本勝負。
先攻後攻の選択権は、挑戦者側に与えられる。
迷わず先攻を選んだ。あたしの魂の叫びをぶつけてやる。
スクラッチ音——そして、戦いがはじまった。
※※※
「始めてしばらくは天狗だった しばらく経ってから面食らった
あたしは何にも持ってなかった 持っている奴らに腹が立った
王冠よりも大事な何か 気づかない自分に腹が立った
「
最初は誰でも
世の中で自分だけが不幸か? ふざけんな そんなんでここ立つな
しっかり見ときな客のお前ら
「おまえが
自称じゃない 確かに皇帝 でも皇帝殺せるのは奴隷だけ
重力があたしを打ちのめした 立つことさえできない虫けらだ
だけどもこれは 二度目の番だ
「重力がおまえを打ちのめした いじわるな神が人を試した
アポロはそれでも月を目指した ラッパーはでかい夢を描いた
メソメソ女 おまえ嫌いだ 昔のあたしを見てるみたいだ
「でかい夢とかそんなもん知るか んなもん持ってない持ちたくもないんだよ
でかい奴がいつでも強いのか 正しい奴だけが偉いのか
そうじゃねえだろ そうじゃねえんだって 信じたくてここに来てんだろ
クソみたいな韻踏むのはもう止めた 魂削ってぶつかる番だ」
「おまえ『なんも持ってない』とか言うけどとっくに大事なもん持ってんじゃんか
ドブネズミみたいにきれいなプライド その
あとは生き方 死にざま 気の持ち方 おい おまえの名はなんだ?
どんな
「あたしが
ちゃんと名乗った ここに立った これがHIPHOPか
ありがとな、
「どういたしまして
ちゃんと分かったよ
白黒いらねえ ただ唄うだけ
※※※
泣きじゃくる
爆ぜる歓声――決して、不相応ではない。
「……はぁ~~~、何がどうしてこうなるんだよ」
心美——事態が
「なんかこれ、根に持ってたら俺の方が
素直になれない言葉とは裏腹に、優しい眼で二人を見守るdoss。
「ぶえ”え”え……あたしも
もらい泣きする葉——少し前の
「おい、
「そんなのあたしが決めますぅ~。文句あるならバトルしようよ」
「たのむから揉めるのは明日にしてくれ……」
肩をぶつけて笑いあう少女たち。
言葉と言葉、
ときに紅く
音で、
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