第14話 フィユドレー家の生き残り

 エナがなんとかテレンを厨房室に押し戻しす。その後、食材が少なくなったのでウィルは早めにアルバイトを上がることになった。

 ここ一週間、急速に客足が伸びたため予備の食材を使わなければいけない状況になったのだ。

 

 アルバイトを上がったウィルはリュックを背負って商業地区にあるデパートに寄り、トイレットペーパーや衣料用洗剤等の生活用品を買って帰路に着いていると。

 交差点から見える街頭モニターでニュース番組をやっているのが見えた。歩道橋の上でウィルは立ち止まって、それを見る。周囲のいる人も立ち止まってモニターを見ていた。


『昨日未明、ノウン市キリトン区にて公安委員が運転する護送車から囚人が脱走しました。目撃者によると――』


 その言葉にウィルの隣にいるカップルがざわくつ。


「やだぁ、めっちゃ怖い〜」

「俺が守ってあげるよ」

「きゃー男前!」


 バカップルだった。

 それはともかく、ウィルは食い入るようにモニターを見続けた。ノウン市はウィルが今いる人工島――『セントラルアイランド』が属する市だ。


 またキリトン区は本土にある。離れてるものの交通機関さえ使えば三〇分以内で来れる距離だ。


(脱走も珍しいけど公安委員会がこんな大きな失敗をするのは初めてな気がする)


 と考えながら青年は眼鏡を中指でクイッと上げた。


『犯人の特徴は赤髪のトレッドヘアにオレンジ色の囚人服』


 かなり目立ちそうな格好だなと思ったウィルだったが。


『両耳にピアス穴が一つずつ、目の右下にほくろ、深爪で左手の甲に蛇の刺青、右腕は捕まった際に怪我を負ったことにより包帯を巻いてあります。えーっと、更に首の後ろにもほくろがあり――』

「どんだけ特徴あるんだよ」


 ウィルは苦笑いをしながら捕まるのも時間の問題だと判断していた。


『――最後に、犯人と出会ったら危険なことはせずに逃げて通報して下さい! また先程言った通り、公安委員会から魔法物マジックアイテムを奪っているため見かけても近づかないで下さい!』


魔法物マジックアイテムか」


 ウィルは呟きながら視線をリュックの方に向ける。

 魔法物マジックアイテムは世界から魔力マナが失われる前に出来た物だ。見た目はアクセサリー類や武器であることが多い。


 魔法を扱えるものが物に魔力マナを込めて出来上がる。それは魔法物マジックアイテムという名前の通り、魔法を発動する。今となっては唯一、魔法が使える手段だ。


 しかし魔力マナの補充が出来ないため使える回数が限られており、今では貴重なものとなっているので基本的には旧三大名家及び新三大名家と政府の機関が保有している。


 青年は一通りニュースを見た後、歩道橋を降りて自宅がある住宅街へと向かう。その道中、繁華街を通り抜けようとすると、


「!」


 前方から見覚えのある人物が現れた。


(ベルリック! なんで一人でこんなところに)


 旧三大名家であるグロウディスク家の次期当主だった。

 ベルリックはウィルに気づき真正面に立つ。


「あんたは確かクルーナ嬢と一緒にいた人だっけ」

「多分そうだね」

「ハッキリしないな、まぁいい」


 あやふやに答えるウィルだが相手は気にも止めていない。


「ところでやっぱり何処かで会ったことないか?」

「ないと思うけど、似てる人と会ったとかじゃないかな」

「ふむ、名はなんという? 知っていると思うが自分はベルリック・グロウディスクだ」


 そう言われて逡巡するが名前を隠してもすぐバレるので名乗ることにした。


「……ウィルグラン・ガードレッド」

「聞いたことない姓と名だが昔、名前にウィルと付く人と会ったことがある」

「!」


 青年は目を見開き動揺するが冷静さを装い。


「ウィルってよくある名前だからね」

「あいつと似ている、髪色といい目といい」


 ベルリックはひとりでに喋る。


「えっと、どうかしました?」


 恐る恐るベルリックに尋ねる。


「ウィルドラグ・フィユドレー……確かあいつはそんな名前だった」

「…………」


 ウィルは下手に反応しなかった。それが例え自分の真名だったとはいえ。


「今言った男の名前は今は亡き旧三大名家のフィユドレー家のご子息の名だ。最も大戦に巻き込まれて死んだとは聞いたがな」

「それは……ご愁傷様です」


 とりあえず、他人事ひとごとっぽい感じを出した。


「確かに同い年で名家として切磋琢磨しあえる同性失ったのは残念だ。まぁ、夜会で二回会っただけの関係だがな。あの時はクルーナ嬢も会場にいたな」


 ウィルは思った。


(なんか昔話始めちゃったよ)


 と、そして長居は無用と判断し。


「そろそろ帰らなくちゃいけないんだけど」

「悪いな。また学院で」

「あ、うん」


 二人は歩き出し互いにすれ違う。


(証拠はないがやはり雰囲気が似ている。気になる男ではある)


 ベルリックは横目でウィルを見る。


(学院落ちたかもしれないのにうんとか言っちゃった)


 なお、ウィルの方はまっすぐ前を見つめて歩いていた。

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