第13話 雑貨カフェ③
――アダムイブ学院の入学試験から三週間が経った。
「ビンタお願いします」
「はぁ……」
バチン! と肌を叩く音が鳴る。エナは溜息を吐きながら初め会った男性の頬を平手打ちしたのだ。
「ありがとうございます! ご飯食べれる上に叩かれるなんて最高だな」
「…………」
うんざりした顔でエナは客にフレンチトーストを出した。
ここは『雑貨喫茶・悠々自適』。どこから噂が漏れたのかは分からないが隠れ家的な雑貨カフェではなく隠れ家的なエスエムなクラブとして認知され始めてきた。そんなお店ではないのだが、エナの母――テレンは客足が伸びたのをいいことに良しとしている。現状、エナが暴力を振るった後に食事を出すというおかしな状態になっていた。
昼時になると、客席は満席となる。開業以来初めてだそうだ。
「お願いします!」
「ちっ……」
「グハッ‼︎」
客の懇願にエナは舌打ちしつつ、客にストレートパンチを食らわす。相手は床に倒れて悶絶した。
「ごゆっくり」
冷淡な声を出したエナはテーブルにハンバーガーを出した。殴られた客は「ありがとう! ありがとう!」と土下座する。そうしてる間にウィルが料理が載った皿を両手に二枚ずつ持ってホールにやってくる。
「マッシュポテトとブリの唐揚げです」
テーブルにお皿を置く。
「こちらは豚バラキャベツとナポリタンとなります」
次いで別のテーブルに料理を置く。
すると、彼はエナの視線に気づいて少し気まずそうに目を逸らす。
「お兄さん」
「なにかな?」
「なにかな、じゃないですよ」
そう言ってエナはウィルにジト目を向けるとウィルは口を開く。
「でもこれでお店の売り上げも上がるし、エナちゃんの家の生活とグッと楽になるね」
「なに開き直ってんですか。おかげで変なお店になっちゃいましたよ」
「とは言っても、本当にお客さんに暴力振るうとは思わなかったよ」
「だって、こいつらがそう望んでますし」
「お客さんにこいつらとか言わないでやって」
「お! 君の噂はかねがね聞いてるよ」
二人が会話していると席に着いてる人が口を挟む。
「僕ですか?」
はてなんのことやらとウィルは思ったが、ここ最近の失態のせいで心当たりがありすぎた。
「お尻叩きフェチの変態お兄さんなんだろ? しかも棒を使うとか」
「それは誤解ですよ!」
ウィルは否定すると他の席に着いている客も口を開き。
「全裸で入学試験受けたとも聞いたよ」
「全裸じゃないよ。パンツ一丁だったけれども」
「やっぱり変態じゃないか」
「……否定出来る証拠がないのが悔しいよ」
また、ある人も口を開き。
「保健室で全裸のまま女の子に迫ったとか」
「いやいやいや、あれは自分の肖像権を守るためですから! 後、全裸じゃないよ。下着姿だったけれども」
「変態じゃないか」
「くっ……」
ウィルは目を瞑り天井を見上げる。不運だったとはいえ反論出来る材料が無かった。
「ウィルちゃん!」
「うおっ!」
ウィルはギョッとする。
「どゆこと! 迫るならエナにしなさいっ!」
厨房室からテレンが駆け寄って会話に加わったからだ。
「はいはい、お母さんうるさい」
エナは母親を厨房に押し戻そうとした。
「まだ娘に負けるわけにはいかない!」
「どこで張り合ってんの」
押し合う親子。
「このお店は親子でプロレスもやってくれるのか!」
「いいぞやれやれ!」
煽る客達。
ウィルは「なんだこれ」と呟いた。
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