第12話

 再びトンネルの前に行くと、一条は他の小さな幽霊を一体一体除霊していた。

 シクがかなり強力な幽霊であったが、他の霊体はそれほどだった。だが、親玉を失った残りの霊の攻撃はもはや、最後の特攻のようだ。

 一条は涙を流しながら祓っている。俺は前回、この子分幽霊たちを倒すことは出来なかった。


 夜奈は今は何かに取り憑かれている訳ではなさそうだ。一条のとんでもない動きに改めて唖然しているようだった。あんなにシクにボコされたのによく戦うよ、あいつ。


 なんだろ……。何だかここに俺の出番はない気がして、先に赤鼻徒から魔導書を回収しようと山を下った。

 獄門の祠に着くと赤鼻徒は何やらスマートフォンを創作していた。


「……何してんの」

 天狗がスマホを使うとかいう、かなり異質な景色に俺は戸惑った。

「いや、風の能力を使って、大阪周辺の住職と契約しようかと」

 そう言いスマホの画面を見せてきた。大手SNSのアカウント画面。フォロワー0人。アカウント名は『Nagahana』

 絶対フォロワー増えねえだろ。

「良いんじゃないか。……それより魔導書を受け取りに来た」

「良いけど、大丈夫なんか?」

「ああ。閻魔がオーブを全て返してきた。何故だと思う」

「良い閻魔様に当たったんだな。地獄に閻魔様は何人もいる。閻魔様によってその辺は変わるんだ。良かったな」

 赤鼻徒はそう言い魔導書を渡した。

 やっぱり。普段はらのは本来のオーブの4%だけ解放しているが、今は明らかに20%も漏れている。俺は魔導書を受け取ると4%まで戻した。

 これだけの短期間で20%だ。油断していれば全ての力を自力で放出してしまうかもしれない。


『人間として行きたいんだ』

 そのらの言葉が未だに頭の中を駆け巡る。


「赤鼻徒。らのは……やっぱり怪物なのか人間なのか分からねぇよ」

「まだ迷うのか」

「ごめんな。こっちとら、数ヶ月だけど一緒に暮らしてんだ。何も、悪い所だけ見てるわけじゃない。意外と面白くて普通のやつなんだ」

「……あっそ」

 赤鼻徒は少し俺に呆れたようだが、特に責め立てることもなかった。


 全て仕事を終えた我々は一旦梅田駅に下りた。夜奈が服を買いたいとのこと。

 こうして我々は大阪観光をし、各々地元へ帰宅した。


 帰宅後、俺はらのの想像体を召喚した。

「よう、らの」

「お疲れ、灯」

 少しぎこちない。らのが全裸なのも理由のひとつなのだが。

「早く着てくれ」

 俺は傍に置いておいたジャージを渡し、服を着せた。


 俺は謝りたいんだ。

「さっきは助けてくれたのに、冷たいこと言ってごめんなさい。よく考えたら、らのがもう二度と人間に被害を加えないのであれば、普通に生活して欲しいと思うんだ。過去の罪なんて関係ないよな」

 俺は自責の念か、理由もなく涙が出そうだったため、らのを抱きしめることで誤魔化した。

「何泣いてんの」

 しかし、らのにはバレていたようだ。


 『トンネルの幽霊』編 完

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