第9話

「高徳」

 一条は数珠を握り唱えると、目の前に半径20 cmの円形の門のような物を作った。そしてそこから巨大な青色の腕が飛び出てきた。巨大な手はトンネルへ向かった。

 目視はできないが我々3人は気付いた。そこに不吉なオーブ、シクがいると。

 巨大な手は内部から何発も殴られたのか

破裂した。破裂した中心には白い服で顔が見えないほど垂れ下がっている長い黒髪の身長170cmほどの女性が立っていた。


「阿弥陀如来様。杖を」

 一条はそう言うと次は半径3 cmの門を出し、そこから出てきた木の棒を受け取った。


 10kJobキロジュールオーブ


 一条は突如、膨大なオーブを身に纏い、素早い速さでシクに飛びかかった。そのままかなりの力でシクの頭を叩き落とした。


「強すぎだろ」

 俺は思わず呟いた。

 一条は鎌倉大仏とその他鎌倉周辺地域の仏像から力を借りて霊体と戦う事ができる。かなり便利そうな能力だが、霊体相手にしか発揮できない上に、普段から仏に認められる善い行いをしないといけないらしい。先程の青い巨大な手は鎌倉大仏のような錆びた銅の青さを持っていた。

 しかも、あの動き方は杖道だろう。武道の技術とオーブのバフが合わさった対幽霊方法だろう。


「夜奈! 晴れ!」

 俺が合図を送ったときには、夜奈はてるてる坊主を折っていた。

 雨はすぐ様止んだ。


 少し針涙を食らったはずだが、それほど体調に変化はない。

 一条は絶え間なくシクを叩いたが、シクは左腕で防いでいた。

 見た目は弱そうな女性だが、奴の本質は高密度の地縛オーブ。ここから畳み掛けないとこの場で三人死ぬ。

 シクが顕現した途端現れたドーム状の膜は、シクを弱めるまで逃げることができないバリアのようなものだ。かつ、我ら人間サイドの精神を不安定にさせ、霊サイドを励起させる。


「だめだ、灯さん。ちょっとルンルンになってきちゃった」

 急に夜奈は言い出した。前回と同じだ。

 俺は胸ポケから予め用意してた護符を取り出した。その護符を夜奈に渡す。

「そのお札にひたすら謝れ」

 俺はそう伝えた。簡易的な儀式だ。

 夜奈は前回もシク戦で突如『なんか爽快な気分になってきた』と言い出した。躁鬱の『躁』に近い。心スポで自殺者が出る原因はこれだ。気分を上げさせて、自死すら快感に思わせる。そのままあの世に連れていくという現象だ。

 この護符に謝罪させるのはかなり簡易的な儀式だ。だが、良すぎる方向に精神が傾いているのを悪く下げさせる。そこまででない、ほんの小さな罪悪感を思い出させる。


 夜奈は度重なる天候の儀式に多くのオーブを消費し、妖術などの耐性が弱くなっているのだろう。シクの妖術だけでなく、この簡易的な儀式まですぐに影響を受けた。


「……口拭くためだけにティッシュを二枚も使っちゃってごめんなさい」

 夜奈はそんなくだらないことでかなり自責しだした。

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