第6話

「そう言えば。一条さんの下の名前は?」


 居酒屋にて。

 灯がちょうど地獄への儀式を行っている最中、夜奈と一条は祠の近くの市街地へ行き、座れる場所へと言うことで串カツ屋へ行き寛いでいた。


「下の名前ですか……。名乗らないことにしています」

 一条は答えた。少し声色や表情が暗くなったのを夜奈も感じ取ったのか、夜奈はこれ以上聞くのをやめようとしたが、一条はこう続けた。

「名前が原因でいじめにあったので」

「そうなんですね。すみませんでした。聞かれたくなかったでしょうに聞いてしまって。普段もデリカシーの無さを注意されてしまうんです」

 夜奈は慌てて謝った。

「いえ、気にしてません。あの過去も別の自分なんです。今は今の自分が生きている」

「過去は別の一条さん……?」

「いじめという過去が自信の低下になって、悩んでた時期もありました。こんな喋り方なのも、人を無駄に刺激しないがためになってしまって。でも、重紙さんと一緒にお仕事をした時にアドバイスを頂いたんです。『名前を捨てろ』と。流石、文字とかのオーブに詳しい方ですよね。過去の名前に含まれる今が私の性格を根暗にさせた。だから名前を名乗るなと」

「灯さんなら……そう言うこと言いそうですよね」

 夜奈はそう言いつつも、灯のことを今まで以上に冷徹な性格なんだなと思った。

 親だって子供がいじめられてしまえなどと思って名付けてないだろう。それをまるで全否定するかのように。実は優しいところもあるのは知っているけど。

 大切な物は守るのに、少しでも悪い物と判断したら紙くずを捨てるかのように投げる。


「重紙さんのこと、冷たい人みたいに言っちゃいましたけど、全然そんなことないんですよ」

 夜奈も少し表情を落としてしまっていたのかな。何か取り繕うように一条が言ってきた。

「いや、私も疑ってなんていませんよ! 灯さんは……」


 灯は前回の大阪での除霊の時に、心霊現象の原因である親玉を倒した後、何やら霊の声を聞いたのかただ泣いていた。その後、地獄へ幽霊を送り地底奥深くに封印する予定だったが、灯は現場にそのまま封印することを提案してきた。だから、どんな者の声にも耳を傾け、一緒に共感してくれる人なんだと夜奈は思っている。

「優しいひとですよ。目つき怖いけど」

 夜奈はそう答えた。

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