第2話

 心斎駅橋という駅を降りると雨が降り注いでいた。

 さっきまでは晴れていたが、急激な気象の変化もこの事件の犯人によるものだろう。

「暴れてますね」

 俺はそう言った。そんな夜奈は何も返すことなく黙っていた。

「……?」

「灯さん、今日で会うの三回目ですし、タメ口でどうですか」


 俺らは大きな商店街のようなところを歩いていた。賑やかで海外の人も多い。

 ところで敬語の話だが、私は仕事とプライベートを分けたい派である。何故なら全てが普通じゃない仕事をしているため、気を休めるときは普通でいたいからだ。そのポリシーで生きてきたため、仕事モードのときは気を引き締めたいのだ。


「距離縮まった感じで良さそうですけど、私はこのままでいきますよ」

「そんなあ。……で、雨でしたっけ」

 お前も敬語使うんかい。

「そうです。ひどくなる前に止められますか」

「どこか外が見えるカフェとかありますかね」

「グリコの近くのスタバとかどうですか」


 俺らはスターバックスに着いた。

 夜奈に席を確保してもらい、俺はドリンクを注文するため、レジに並んでいた。


 夜奈は外に近い席に座ると、カバンから白い布、中指くらいの長さの木の棒、綿のようなもの、黒い紐を取り出した。それらを用いて作ったのはてるてる坊主だ。

 俺は夜奈のご指名、なんちゃらフラペチーノを持ち、夜奈の向かいの席に座った。

「これ持って」

 夜奈はてるてる坊主の結ばれた黒い紐を持ち、俺に渡してきた。

 彼女は天気オーブの専門家だ。かなり体力とオーブを消費して上空の大気圧を動かすおまじないをする。

 俺はてるてる坊主を吊るすように持った。一般的なてるてる坊主と違うのは、木の棒が中心に包まれており骨組みの役割をしていることだ。

 夜奈は合掌し、何か念じ始めた。普通に見るとてるてる坊主に祈る滑稽な姿だが、見える人にはわかる。背筋が凍るほどのオーブの量だ。放出されたオーブはてるてる坊主を包み込む。てるてる坊主は少し振動し出し、何やら生きているかのような力を感じた。

 私もこの儀式は何回か見たことがある。ここまで力を入れても必ず天候が変わる訳ではない。

 突如パキッという音が鳴り、てるてる坊主はコックリと項垂れた。先ほどまでの生命力的なものはなくなり、そこにあるのはてるてる坊主の形をした白い布だった。中の木の棒は二つに折れたようだ。

「終わりました」

 汗だくになった夜奈は「糖分補給」と言って、なんちゃらフラペチーノを飲み出した。

 顕著に雨の量が減っていく。

「今回は大成功ですね。封印解かれたばっかだから弱いのかな」

 夜奈は一瞬にしてドリンクを飲み干した。

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